<オリックス1-2楽天>◇28日◇京セラドーム大阪

 楽天が、球団創設9年目にして初の優勝マジックをともした。過去2勝15敗と苦手にしていたオリックスのエース金子を攻略。3回まで無安打に抑えられていたが、4回に主砲アンドリュー・ジョーンズ外野手(36)の19号ソロで同点。6回1死二塁からは銀次内野手(25)の中前適時打で勝ち越した。最少リードを、4投手でつないだ。投打一丸でマジック28。04年にプロ野球界を揺るがせた再編騒動を契機に生まれた、みちのくの新球団が、悲願の初優勝へ突き進む。

 いつもの星野仙一監督(66)だった。斎藤が最後の打者、原拓を空振り三振に仕留めた。指揮官は、ナインを出迎える列の最後に加わった。1人1人とハイタッチ。口元はギュッと引き締めたまま。これまでの1勝と同じ儀式を繰り返した。打線が苦手金子に勝っても、淡々としていた。「そんなにKOできない。投手戦になったから良かった。初回を切り抜けたから。粘り勝ちだ」と、1回1死満塁を抑えた守りを挙げた。天敵に競り勝った。派手な勝ちではなかったが、確実に力がついたことを証明した。

 その力を引き出したのは、監督自身の“やりくり”だった。監督通算16年目。積み上げた白星は1000を超える。だが、中日、阪神を経て、やってきた3球団目は少し勝手が違った。予算面で思う補強は望めない。今季こそジョーンズ、マギーの大砲が加わったが、描いた理想には遠かった。「最後は何もしないでいい、戦力の整ったチームで監督をやりたかったな。そしたら、最後の最後で貧乏くじか。やりくり人生だな」と冗談のネタにする。

 それでも、戦わないといけない。育てるしかなかった。勝ち越し打の銀次は、就任当時は2軍。「1年目(11年)の秋。光るものがあった」と使い続け、3番を任せるまでになった。投手陣も、やりくりだ。ラズナーが24日ロッテ戦で右肘を痛め離脱。勝負の秋を前に、まさかの守護神不在。「こんなん初めてや」とボヤくが、悲壮感はない。日替わり守護神で切り抜ける。「もう、何が起きても驚かなくなった」と笑った。

 我慢を重ね、戦う集団にした。闘将も66歳。鉄拳こそなくなったが、厳しさは変わらない。教育論となり「褒めて伸ばすって違うだろ」と言った。「褒めることは大事。でも、褒めるところがないのに褒めるか?

 俺らは良い、悪いを教えるのが仕事。戦場で兵士が相手を撃った。よくやったと褒めているうちに、敵に撃たれたらどうする」。プロで生き抜くすべを教え、若手が「野球が楽しい」と口をそろえるチームにした。

 「この球団は初めてが多いな」と言ったこともある。「球団初」、「球団最多」、「球団最速」等々。創設9年目。歴史が浅く、球団記録は出やすい。だから、球団初マジックにも冷静だった。試合後、ソフトバンク対ロッテ戦が終わっておらず「ソフトバンクが負ければ」という質問を、「いいんだ。そんなことは」と遮った。ただ、何かが大きく変わろうとしている。それを、星野監督も感じている。大阪入りした26日の仙台空港。飛行機に乗り込む際、居合わせた乗客から大きな拍手を送られた。今までなかったこと。「やっぱり、人間は強いものに憧れる」とつぶやいた。仙台に来て3年目。歴史をつくる時は来た。【古川真弥】