<コナミ日本シリーズ2013:巨人6-5楽天>◇第4戦◇30日◇東京ドーム

 V9の魂をもらった。巨人が楽天に逆転勝ちし、2勝2敗のタイに戻した。巨人原辰徳監督(55)は、大先輩川上哲治氏の死去の報を受け、沈痛な表情を浮かべた。チームは黙とうをし、喪章をつけて臨んだ。川上監督のV9以来となる日本一連覇がチームそして指揮官の目標。手紙や電話で励まし続けてくれた大先輩へ手向けの1勝をささげた。

 試合後、お立ち台で原監督は声を大にした。川上さんのことを聞かれた時だ。「巨人軍の父である。もう、どういう表現をしていいか分からない大先輩です。今日の勝利というものがね…。喜んでくれている。というふうに思います」。過去3戦、停滞していたチームを動かした。スタメンを大幅に代え、控えメンバーを惜しみなくつぎ込み、全員の力で勝った。偉大な先輩を追悼する試合。なんとか勝利を届けられた。

 もう少ししたら、日本一連覇の知らせを届けるつもりだった。しかし、その前に訃報を聞いた。「個人的にも、キャンプ前にお手紙を下さったり、電話で話す機会をいただいたりした。ここ1、2年は、OB会にも出て来られなくて、お話をする機会がありませんでしたが…」。悲しげに眉を寄せていた。

 川上氏とのことで、忘れられない思い出がある。まだ現役時代、多摩川で練習していた時のことだった。調子を落としていた時、室内練習場で打撃指導を受けた。カーブを投げる打撃マシンを体の方向に向けられた。そこから繰り出される球をバットで打つ練習だった。「あの練習は印象に残っているし、今、私が指導する時にも、生かさせてもらっている」。教えられたことを、若い世代にも伝えている。

 受け継ぐべきV9の魂は、ただ単に強いということだけではない。原監督はそのことをチーフマネジャーとして川上氏を支えた故山崎弘美氏から教わった。担当スカウトとして東海大時代から付き合いのある同氏は、私生活や野球に向き合う姿勢にも厳しかった。「苦しい時はバットを振れ」と声を掛けられ、バットを持って宿舎の屋上に走ったことが、何度もあった。5月、その山崎氏の告別式があった。「必ず、日本一連覇を達成してみせます」と霊前に誓い、戦ってきた。

 川上氏は監督時代、出場した全ての日本シリーズを勝った。短期決戦の「鬼」だった。その「鬼」をほうふつとさせる場面があった。7回、決勝打の直前、原監督は寺内に耳打ちした。頭部死球の影響で、腰の引けたスイングをしていた前の打席を見て「守りに入るな。踏み込め」と言った。大先輩と同じように、眼鏡の奥の眼光は鋭かった。その観察眼と明確なアドバイスが、決勝打を生んだ。ここにも短期決戦の「鬼」がいた。【竹内智信】