<コナミ日本シリーズ2013:巨人2-4楽天>◇第5戦◇10月31日◇東京ドーム

 死力を尽くし、楽天が王手をかけた。星野仙一監督(66)は先発辛島を5回1安打無失点でスパッと代え、6回から第1戦に先発した則本を送る勝負の継投に出た。9回に同点に追いつかれたが、延長10回、死球で負傷交代の藤田が涙を浮かべ広げた好機で、銀次が決勝の中前打を放った。対戦成績は3勝2敗。明日2日はKスタ宮城で田中が先発予定。無敗のエースで勝って、仙台で球団創設9年目で初の日本一をつかむ。

 最後に巨人長野のフライが、二塁阿部のグラブに収まった。星野監督は「ヨッシャ!!」とほえ、両手をパチンとたたいた。お立ち台の第一声は「今日ほどしびれた試合はないね。本当は9回で帰りたかったけど、その分、みんな楽しんでくれたからいいや。うれしいね。本当に涙が出ちゃう」。明るくファンを沸かせたが、目は赤かった。それだけ、力を振り絞った。

 迷いはなかった。2点リードをもらった先発辛島は、5回まで1安打無失点。今季一番の投球を目にしても、星野監督は「リードしていれば6回から則本と決めていた」と、新人右腕を送り出した。1点差に迫られ迎えた9回には、ベンチで両手を合わせた。「頼むぞ」という思いを届けたが、土壇場で追いつかれた。だが、延長10回、1死一、二塁で銀次が決勝打。直後には、死球を受けた藤田が涙を浮かべながら交代。星野監督は「悔しいだろう。でも、あの死球があったから2点、入った」。監督だけじゃない。選手全員の気迫、執念が、勝利を引き寄せた。

 2勝2敗の五分で臨んだ。負ければ王手をかけられるポイントで、先発にはシリーズ初登板の辛島を選んだ。理由を「来年はローテに入って欲しい。成長しないといけない。大事な舞台を経験してもらわないと」と言った。経験に勝るものはない。そう信じている。

 逆転負けした前日だった。試合中、ふと「来年は、どうしよう」と思ったという。日本一を決める目の前の戦いよりも、来季の構想が頭に浮かんだ。「短期決戦を少しでも経験させたい。だから若い人を使う。もちろん、勝つことが一番。だが、使われたヤツが何かを感じて、来年につなげてくれればいい」。過去3度、日本一を逃している。短期決戦は勝てない。そんな批評も耳に届く。「勝利だけ優先すれば、シリーズでの若手起用は控えるか」と聞かれ、即答した。「控えるかもな。でもな、経験させながら勝つ。それが俺のやり方や」と笑った。

 貫いたスタイルが実を結ぶところまできた。明日、エース田中で勝てば、悲願がかなう。「良い舞台をみんなで作ったんだから、力を発揮してくれればいい」。機は熟した。

 シーズン終盤、星野監督にうれしいことがあった。10月3日ロッテ戦(Kスタ宮城)。7回を終え6-5も、8回に2点を失った。右投手が左打者に打たれても、代えずに逆転負け。球場に、ブーイングが響いた。既に優勝を決めており、登板過多の左投手を休ませるためだった。誤解されたが、星野監督は「うれしかったな。よしよしと思ったよ」と歓迎した。

 就任当初から「KOされた投手に拍手を送るなんて」と、甲子園では考えられない応援スタイルに違和感を口にしていた。東北の人の優しさだとしても、気質の違いを感じていた。だが就任3年目で、ヤジが増えた。求めてきた“勝利への貪欲さ”が、ファンにも浸透してきた証拠だろう。だから、ブーイングを喜んだ。遠征を終え、仙台に戻ると「ホッとするな」。ファンとの距離は確実に縮まった。その仙台で、日本一の胴上げが待っている。【古川真弥】