<巨人5-12阪神>◇11日◇東京ドーム

 阪神が原巨人の奇策を打ち破って8連勝、2位に浮上だ。6回1死二、三塁、代打西岡剛内野手(29)に対し、巨人はカウント2-2から内野を1人増やす変則シフト。西岡は狙い澄ましたように無人の中堅に落とし、2点適時打にした。満面の笑みで左手を突き上げた背番号7。3月30日に大けがを負った東京ドームで痛快G倒のヒーローになった。

 感傷に浸っている場合ではなかった。目を疑うような光景に、西岡は闘志をかき立てられた。6回、2点を勝ち越し、なおも1死二、三塁で代打起用。左腕青木の5球目に入る直前、敵陣が動く。左翼亀井が内野に駆け寄り、グラブを取り換える。そのまま三遊間に収まり、内野は5人。大胆にもセンターの定位置が無人の変則シフトを敷く。

 西岡

 自分の中で気にせず、外野が3人いるつもりで無心にバットを振りました。あまり気にすると術中にはまる。そういう打撃をさせたいだろうし、詰まらせたい配球だろうなと。

 心は乱れない。青木の内寄り直球をミート。普通なら中飛に終わる白球は、巨人の奇策をあざ笑うように外野をはずむ。リードを4点に広げる適時二塁打で流れを引き寄せた。

 超満員の大舞台に戻る一心で戦ってきた。開幕3戦目の3月30日、東京ドームでの二塁守備中に福留と交錯。肋骨(ろっこつ)骨折や左肩鎖関節脱臼の重傷で実戦復帰まで2カ月半も要した。入院中の病室では、ベッドのリクライニング機能がなければ起き上がれないほどの症状だった。励みになったのはあの日、救急車で運ばれる直前に起こった両軍ファンのエールだ。後頭部を強打し、意識を失っていた。G党から起こった「頑張れ!

 頑張れ!

 西岡!」のコールこそが、復帰への道しるべだった。

 西岡は「西岡コールで意識がほんとに戻りました。自分の名前が球場に響いたとき涙が止まりませんでした」と心境を明かす。胸の痛みがなかなか消えず、鳴尾浜で行うリハビリの合間には、温泉に通った。数時間かけて岐阜など遠方まで治療のため足を運び、最善を尽くした。

 1軍復帰後は右肘の張りを訴え、6月29日中日戦を最後に代打起用が続く。それでも、土壇場での勝負強さは健在だった。「シーズンも半分で、そういう場面に何度も遭遇する。これからがスタートだと思っています。巨人の背中を追って巨人に追いつき、追い越していきたい」。同僚も3本の祝砲で応え、07年以来、7年ぶりの8連勝だ。2位に浮上。前半戦勝ち越しを決め、首位巨人に3・5ゲーム差に迫る。役者がそろい、眼光鋭く頂点を狙う。【酒井俊作】

 ◆西岡の負傷VTR

 3月30日巨人戦(東京ドーム)の2回、巨人大竹の二塁後方への飛球を追った西岡は福留と交錯し、ともに倒れたまま動けなくなった。後頭部から落ちた西岡はしばらく意識を失い、試合は25分間中断。ドーム内に入った救急車で病院に搬送され、鼻骨骨折と胸部打撲、左肩鎖関節脱臼と診断。翌31日の検査で脳に異常なしと診断されたが長期離脱となり、6月27日中日戦から1軍に復帰した。

 ▼阪神が07年9月以来の8連勝。連勝中はチーム打率3割3分の阪神だが、中でも3番鳥谷が4割8分5厘の8打点、4番ゴメスが4割4分8厘の11打点、5番マートンが4割6分9厘の10打点。クリーンアップがそろって打率4割を超え、チーム52得点のうち3人で29点をたたき出している。今回と同じく7連勝で東京ドームへ乗り込んできた07年は巨人に3連勝して10連勝まで伸ばしたが、今回の連勝はどこまで続くか。