<阪神5-0広島>◇14日◇甲子園

 空気が、一振りで変わった。37歳阪神福留孝介外野手が右中間スタンドへの弾丸ライナーで均衡を破った。0-0の7回1死。広島中田の144キロ直球に反応した。

 「今シーズン打った中でもいい手応えだった。ランディ(メッセンジャー)は堂々としてピンチを背負ってもゼロで帰ってくる。なんとかしてやろうと思った」

 直前の守りで、右から左に吹く浜風が止んでいることを感じていた。無風の上空を打球が進むと、6号ソロを確信。一塁ベースをまわると感情が高ぶり、ガッツポーズが出た。

 前日13日、相手広島の応援を繰り広げるなど「見放した」虎党が、立ち上がって祝福してくれた。「1つの負けだから…。僕らも切り替えるしかない」。本塁打前の初球はセーフティーバントの構え。なんとかしたい一心だった。17失点を喫した歴史的大敗と決別するスイングだった。

 打率は2割2分8厘。日本復帰1年目の昨季から、凡打の度に厳しいヤジを飛ばされた。それでも1、2軍問わず、複数の選手が成績に見えない福留の大きさを口にする。6月に2軍落ちした際には、福留の約半分しか生きていない19歳横田が言った。「僕にとってはWBCでホームラン(06年の準決勝韓国戦)を打った人。そんな方が外野を組むと、守備位置とかを事細かに教えてくださる。本当にありがたいです」。9日の試合前練習では狩野に守備についてのアドバイスを約20分間。福留は「普通、普通」と多くは語らないが、後輩は「いい先輩に恵まれています」と気遣いに感謝が尽きない。

 この日も結果は4打数1安打。それでも1本で勝利を呼び、本塁打を放った試合は6戦全勝だ。お立ち台では「選手は誰ひとり諦めていません」と4万6561人に誓った。勝負強さだけではない。チームを支える37歳の存在は、猛虎の財産だ。【松本航】