フィルダー超えで存在を証明だ。13日、阪神の高知・安芸キャンプは第3クールが始まり、1軍首脳陣が合流。フリー打撃では陽川尚将内野手(23)が和田監督の目前で、左翼席後方の「フィルダーネット」を越す推定140メートル弾をマークした。打撃投手相手に40スイングで11本の柵越えとパワーを見せつけた。エンジン全開の新星が、この秋の目玉になる。

 安芸の青空に向けて、陽川の大飛球が上がった。掛布DCの「いったなー、おい!」の声にも乗り、ボールはぐんぐんと伸びる。左翼席後方には、89年にフィルダーの145メートル弾を受けて建てられた「フィルダーネット」がそびえる。それも越えた。希望の一撃は、球場外の道路上に張られたネットに着弾した。

 陽川

 普段と変わらずできました。長打力が売りなので、多少はアピールできたと思います。

 29スイング目での特大弾。衝撃の1発を目の当たりにした中年男性は「安芸に10年ほど通っているけれど、ここまで飛んだの見たことがない」と目を見開いた。それでも陽川は、表情を変えることなく30スイング目に移った。すると、続けざまに左中間への柵越え。さも当然かのように、40スイングで11本のアーチをかけた。今年は春季キャンプからずっとファーム暮らし。1軍首脳陣にとって、実力は未知数だったはず。掛布DCの隣で見守った和田監督の言葉が、大きな可能性を端的に表していた。

 和田監督

 1軍クラスというか、1軍でもなかなか飛ばないような打球だった。目立ったクセもなく、いいバットの出方をしている。とらえた時の打球は目を見張るものがあったな。

 今季ファームでは6本塁打。4番を担う試合もあったが、打率は2割4分1厘と好不調の波が激しかった。その中で掛布DCらと、グリップの位置を低くするなどフォームを改良。10日の紅白戦でも本塁打を放つなど、自分の打撃が固まってきた。胸に秘めた思いも成長を後押ししている。大卒、社会人ルーキーで唯一1軍に上がれなかったことが、エネルギーになっている。

 陽川

 長打力は自信を持っていかないと持ち味がなくなる。1日でも早く1軍でプレーしたい。

 そのためにまずは、春の沖縄・宜野座キャンプを狙う。20日の打ち上げまで続く、猛烈アピールがスタートだ。【松本航】

 ◆陽川尚将(ようかわ・なおまさ)1991年(平3)7月17日、大阪市生まれ。金光大阪では1年夏、3年春に甲子園出場。巨人から育成3位指名を受けるが断り東農大へ進学。13年ドラフト3位で阪神入り。今季ウエスタン・リーグ98試合に出場し、6本塁打、38打点、打率2割4分1厘。179センチ、86キロ。右投げ右打ち。

 ◆フィルダーとディアーネット

 どちらも安芸市営球場の左翼側にある。89年春季キャンプでフィルダーの打球がバックスクリーン後方の車を直撃。安芸市当局が急きょ左翼席後方に設置した高さ7メートルのネットが「フィルダーネット」と呼ばれる。94年春には新外国人ディアーの飛距離に備え、フィルダーネットを3メートル伸ばし高さ10メートルとし、ネットの10メートル後方に新しく10メートルの新支柱を立てた。2本の支柱間にネットを張ったものが「ディアーネット」。右翼側には98年春に高くなった「大豊ネット」と呼ばれるネットがある。