横綱白鵬(30=宮城野)が、自身の最多記録を更新する35度目優勝を飾った。1差で追う鶴竜(29)との横綱対決を制し、14勝1敗。同じモンゴル出身の先輩旭天鵬(40=友綱)が去就を発表する前に、優勝インタビューで「大先輩が今場所限りで引退」と“フライング発言”してしまったが、慕ってきた兄貴分に優勝パレードの旗手を依頼し、花道を最高の勝利で祝った。

 これまでとはひと味違う優勝に、大横綱も興奮していたのかもしれない。表彰式後の場内インタビュー。パレードの話を振られた白鵬は、その時点で決定していなかった旭天鵬の去就を思わず口にした。

 白鵬 我々の大先輩が、今場所限りで引退ということで、その花道を、優勝パレードで一緒に(車に)乗せることができたんでね、いいなと思います。

 “フライング発言”を支度部屋のテレビで見た旭天鵬も、びっくりだった。「横綱には何も話してないよ。ずっと引退すると言ってたから、思いこんでたんじゃないかな」と苦笑した。

 旭天鵬の存在は、白鵬にとっても偉大だった。「我々の故郷から初めて来て、そこで我慢して、耐えて、やってなければ、我々の道はなかった」。モンゴル人力士のパイオニアとして道を切り開いた先輩には、感謝してもしきれない。横綱に昇進してからは、土俵入りで太刀持ちや露払いをこなしてもらった。「まあ、先輩でもあるし、時には先生かな。お兄さんでもあるし、相談に乗ってもらったりね。友人でもある。それくらい深い」としみじみ話した。

 取組を終え花道を泣いて戻る旭天鵬の姿に、横綱決戦への気持ちも高まった。迎えた鶴竜との結び。不十分な左四つでも、攻め続けた。右上手を引きつけ、寄り切った。新大関照ノ富士が注目を集めた場所で、角界第一人者としての力を発揮。「この優勝は、1つの壁になったんじゃないかな」と胸を張った。

 今場所は1分43秒4を要した2日目の高安戦など、1分超えでの決着が3番あった。取組平均時間は27秒9。勝ち急いで3年ぶりに4敗した夏場所の7秒3より大幅に長い。その一方で、5秒以内の勝利も6度。不十分な体勢では無理せず時間をかける遅攻と、一気に仕留める速攻。緩急自在の攻めが際立った。

 パレードでは、旭天鵬に旗手を依頼した。「兄貴 お疲れ様でした 白鵬翔」のメッセージと懸賞3本(9万円)を付けた花束も贈った。車上では“兄貴”の左腕を持ち、何度も万歳した。「気持ちいいですね」と同時に「不思議な感じがしました」とも言った。先輩の花道を祝う喜びと寂しさ。いろんな感情が詰まった35度目の優勝だった。【木村有三】