前代未聞の謝罪Vだ。横綱白鵬(31=宮城野)が、注文相撲で横綱日馬富士(31)を下し、自身の持つ最多記録を更新する36度目の優勝を果たした。左への変化であっさり決着をつけたことに、観客からヤジが連発。白鵬は優勝インタビューで「本当に申し訳ない」と泣いてわびた。ダメ押し問題など第一人者としての課題が残ったが、4場所ぶりの優勝で強さも見せつけた。

 荒れる春場所が、最後に大荒れになった。祝福の場になるはずだった白鵬の優勝インタビュー。観客からは拍手とともに、怒りの声が飛び交い、異様な雰囲気になった。

 「勝ったら何でもいいんか!」「そんなに懸賞金が欲しいんか!」…。

 容赦ない罵声に、白鵬の目が潤み出す。4場所ぶりの優勝に「8カ月の長い間、優勝から遠ざかってたんで」と言った後の言葉が続かない。「すみません」と小声でつぶやく。それでも、ヤジは止まらない。「金返せ!」「モンゴルへ帰れ!」…。厳しい声を立て続けに浴びた。

 「2日目からいい相撲を取っていて、千秋楽にああいう変化で決まると思わなかったので。本当に申し訳ないと思います。すみません」。左手で目頭を押さえ、泣いて頭を下げた。

 白鵬にとっても、熱戦を望むファンにとっても「まさか」の結末だった。勝てば優勝、負ければ稀勢の里との決定戦にもつれ込む、結びの一番。白鵬は開いた右手を日馬富士の顔へ伸ばすと、すかさず左へ動いた。ふいをつかれた相手は、止まることなく土俵下へ。わずか1秒1。八角理事長(元横綱北勝海)は「変化というより、いなしだよ」と擁護し、白鵬は「あれで決まると思ってなかった」と何度も弁明。プライドよりも、理解を求めることに努めた。

 8日目の嘉風戦は、ダメ押しの影響で井筒審判長(元関脇逆鉾)が左足付け根付近を骨折。審判部から厳重注意を受けた。その後は相手を寄せつけない強さで、3場所連続V逸で漂っていた「限界説」を帳消しにした。張り手やかちあげの荒々しい攻めや、この日のような注文相撲は、横綱としては疑問符がつくが、勝利への強い執念の裏返しでもある。

 モンゴル相撲の横綱だった父ムンフバトさんは、年1回しかない大会で6度優勝。「大相撲は年6回だから36回で並ぶ」と言っていた白鵬は、敬愛する父に追いつき「やっと並んだ」。泣いた後の支度部屋では笑顔も見せた。次の目標を問われ「目指せ1000勝ですかね」と答えた。大台まで、あと28勝。東京五輪がある20年までの現役続行を目指し、東京の部屋近くに専用トレーニング室の建設計画も判明した。強さを増すほど周囲の目は厳しくなるが、あくなき向上心は健在。白鵬時代はまだまだ続きそうだ。【木村有三】