米国のテレビドラマ「奥さまは魔女」は66年から日本で放送され、80年代まで断続的に再放送が繰り返されていたから、ご存じの方も多いと思う。

 スティーブンス一家は、広告代理店勤務の夫ダーリンに専業主婦の妻サマンサ、一人娘のタバサという平凡な3人家族だが、実は妻が「魔女」という設定で、魔法が巻き起こす珍騒動が笑いを誘うシチュエーション・コメディーだった。

 凡庸な夫を「下等生物」とさげすむ母エンドラの干渉にめげず、サマンサは可能な限り魔力を封印して家事をこなし、「理想の主婦」たろうとする。夫がピンチに立たされると、こっそり魔法で助けたりもする。

 荒唐無稽なコメディーの根底に確固たる当時の良妻イメージが敷かれていて、幼心に「内助の功」の美徳をすり込まれた気がする。女性の社会進出が進み、良妻の形は変わって来たが、「良夫」に置き換わったり、同性婚のパートナーだったりする場合も含め、内助の功への好感は普遍だと思う。

 「奥さまは魔女」のことを思い出したのは、「良妻」が際立つ作品が相次いで公開されるからだ。

 6月1日公開の「ゴールド 金塊の行方」は金鉱採掘、同24日公開の「ハクソー・リッジ」は戦争と、ともに「男のフィールド」で起きた実話が題材である。男たちのドラマにはそれぞれ起伏があり、沈んだり、浮かれたりするのだが、そんなときに妻が登場して、支え、戒める。作品のアクセントであるとともに、彼女たちがいたからこそ、彼らがあったと得心させる。

 「ゴールド」の妻は金鉱とは無縁の家具店に勤めている。不振にあえぐ夫を支え、インドネシアの山奥でひと山当てると、素直に成功を喜ぶ。が、金満家となった夫の取り巻きの中に「腹黒さ」を感じ取ると、はっきりと嫌悪感を示す。

 無防備な夫に女の感で警告するのだ。結果夫婦は仲たがいしてしまうのだが、終盤はしくじった果ての「言わんこっちゃない」夫を再び温かく迎え入れる。

 夫役はマシュー・マコノヒー。「ダラス・バイヤーズクラブ」(14年)のやせ細った姿から、一転、ぷっくりおなかの無頓着な中年男に再び体を張っている。演技の注目はこちらに傾くと思うのだが、妻役のブライス・ダラスもしっかりと見ていただきたい。

 最近でも「ジュラシック・パーク」でクリス・プラットと、「ピートと秘密の友達」でロバート・レッドフォードと新旧スターの相手役を務め、自在な対応が記憶に残る。

 ソニーやキャノンのCMを手掛ける映像作家でもあり、ガス・ヴァン・サント監督の「永遠の僕たち」もプロデュースした多才な女性である。

 「ハクソー・リッジ」はメル・ギブソンが監督し、アカデミー賞6部門ノミネートが記憶に新しい。沖縄戦の前田高地が舞台で、白兵戦の中で75人の命を救った衛生兵の姿が描かれる。

 沖縄の悲劇を、この映画でいえば敵側から認識し、学んできた身としては複雑な思いで試写室に入ったのだが、敵味方というよりは「戦争の残酷さとむなしさ」そのものが浮き彫りになる作品で、いざ開幕すれば抵抗なく入っていけた。

 「沈黙-サイレンス-」で宣教師を演じたアンドリュー・ガーフィールドの主人公には今回も宗教の影が色濃い。キリストの教えへの独特な原理主義的解釈と、ある幼時体験から自ら武器を取ることを戒めている彼は、それでも戦場で役に立ちたいと志願する。

 ライフルを手にしない彼は練兵場で徹底的ないじめに遭い、軍法会議にも掛けられる。が、あまりのいちずさに周囲も認めざるを得なくなり、衛生兵として激戦の地へ…。

 八面六臂(ろっぴ)の活躍で、後に「良心的兵役拒否者」としては初めての名誉勲章を授与されることになったのは実話である。

 「変人」を貫く彼を、「あなたは正しい」と支えるのがテリーサ・パーマー演じる妻である。軍法会議後、さすがに折れそうになった夫を励まし、「常識」に照らせば変なことでもストップを掛けるのではなく、背中を押す。押し引きのあった「ゴールド-」のケースとはパターンを変えるが、これまた絵に描いたような内助の功である。

 改めて言うが、2作品の主人公は実在の人物である。無邪気なところがあり、だからこそ、何かを成し遂げたのだろう。だからこそ、隙だらけの弱点を補ったパートナーの存在が印象に残った。【相原斎】

「ハクソー・リッジ」の1場面 (C)Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016
「ハクソー・リッジ」の1場面 (C)Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016