ハリウッドを拠点に映画監督として活躍する和泉谷晶子さんが監督・プロデュースを務めた短編アクション映画「アザーサイド/銃口の向う側」が、短編映画を対象とした日本の映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア(SSFF&ASIA)」(6月4日~14日)で上映されることが決まり、作品作りへの思いや女性監督としての難しさなどについて話を伺いました。

 同作は、覆面捜査官が誘拐された婚約者を救うために、アジア系マフィアのアジトに乗り込むが、そこで待ち構えていたものは想像とは違っていた……と言う15分間のアクション映画。短編映画ながら、米人気ドラマ「HEROES」のアンドウ役で知られるジェームズ・カイソン・リーが主演を務め、ジャッキー・チェンのスタントチームの一人でもある武術太極拳の世界チャンピオン、アルフレッド・シングがスタントコーディネーターを務めるなどハリウッドの第一線で活躍する豪華キャストとクルーが集結。一流どころが手掛けたハリウッド映画さながらの本格的なアクションも見どころの一つになっています。

 子供の頃からハリウッド映画が大好きで「シンドラーのリスト」(93年)を観て影響を受けたと言う和泉谷監督は、「メッセージ性の高い作品作り」にこだわってきたと言います。そんな監督がナラティブ映画としては3作品目となる本作で描きたかったのは、「映画の中で名も無きまま殺される脇役の悪人にも彼らなりの人生がある」と言うこと。「典型的なハリウッドのアクション映画で主人公のヒーローに撃たれてすぐに殺されてしまう脇役って、どんな人達なのだろう? と考えたことがきっかけでした。ある一つの出来事を一定の方向から見るだけでなく、視点を変えてみることで違った側面が見えてくるはず」と、本作ではハリウッドのアクション映画では決してスポットライトを浴びることのない“殺され役”の視点を描いています。

 女性的な外見とは裏腹に、本作はストーリーも自ら考案して作られた本格アクション。「特にアクションを撮りたかったわけではありませんでしたが、映画を作っている時は、外見で判断されたくないので、わざと男っぽい作品にしました」と、女性監督ならではの苦労も吐露。女性監督が第一線で活躍するのはまだまだ難しいのが現状で、「女性だから」と言われることも多いのだとか。「ハリウッドでも、女性の監督で生計を立てている人はわずか30人程度しかいないと言われています。厳しい世界ですが、私もその1人となって映画作りでいつか生計を立てられたと思っています」と和泉谷監督。映画監督を夢見て、ハリウッド映画の本場で映画作りを学ぶために、1996年に渡米。99年に巨匠フランシス・コッポラらを輩出したことで知られるUCLAの映画学科に編入し、卒業後は日系のテレビ局勤務を経て、現在は映画スタジオで働く傍ら自らインディペンデント映画の制作を行っています。北京国際映画祭でベスト・ドキュメンタリー賞を受賞した反戦を題材にした長編ドキュメンタリー映画「サイレント・シェイム」で注目を集めるなど、ハリウッドで活躍する数少ない日本人の女性監督です。

 「前半の典型的なハリウッドのアクション映画の雰囲気と、視点を変えた後半の違いをぜひ観て欲しいですね。見せ場も多く、アクションがかっこいいと言われるので、楽しんでもらえたら嬉しいです」。アクションを通じて、「悪人も同じ人間である」と言う監督なりのメッセージが込められています。

 SSFF&ASIAは、米アカデミー賞公認のアジア最大の国際短編映画祭で、世界100カ国以上の国と地域から集まった5000本の作品の中から選ばれた約200作品が上映されます。本作は6月12日~14日に上映予定。上映作品は誰でも無料で楽しめるので、興味のある方はwww.shortshorts.org/2015で詳細を確認できます。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)

映画「アザーサイド/銃口の向う側」のワンシーン
映画「アザーサイド/銃口の向う側」のワンシーン