今年は、10年に62歳で亡くなった劇作家つかこうへいさんの七回忌で、つかさんの作品の上演が相次いでいる。6月にも、つか番編集者だった見城徹氏が社長を務める幻冬舎プレゼンツで、横内謙介氏の上演台本・演出の劇団扉座「郵便屋さんちょっと」、元SKE松井玲奈主演の「新・幕末純情伝」を見た。

 「郵便屋さんちょっと」は70年代初期の作品で、見たことがなかったが、横内氏は見事につかワールドを再現していた。人の優しさ、温かさ、ずるさ、身勝手さを活写しつつ、最後にはいとおしさが募っていく、カタルシスにどっぷりつかれる舞台だった。山中崇史ら役者陣もつかテイストの演技で、つかさんへのオマージュになっていた。

 そして、拾い物だったのが松井の沖田総司だった。近年、上演された若手女優を起用した「新・幕末純情伝」には不満が残った。今回もあまり期待していなかったが、松井・総司は立ち姿もりりしく、つかの思いを込めた「国家百年の大計を成すものは、人の心の誠を知れと。人の心の憐れを知れと。女、恋に狂わば歴史を覆すと」という名せりふもしっかりと伝わってきた。

 坂本龍馬役のノンスタイル石田明とともに、意外な収穫だった。つかさんは多くの若手女優を起用してきた。広末涼子、石田ひかり,牧瀬里穂、石原ひとみらを相手に厳しく指導し、女優としての飛躍に導いた。つかさんが生きていたら、AKB48にも注目し、抜てきしての舞台を上演しただろう。つかさんは人と接する時に偏見や予断とは無縁で、いつも公平な人だった。そんなつかさんとアイドルの「共演」も見たかった。【林尚之】