戦後70年という節目もあり、戦争や世界を舞台にした日本人をテーマにした作品が多い。「海難1890」しかり「杉原千畝」しかり、この作品もそうだ。

 20世紀初頭にフランスでパリ派の画家として成功を収めた藤田嗣治の半生を描いた。「眠る男」で知られる小栗康平監督にとって、10年ぶりの監督作。遠めから長回しで撮るスタイルは、構図自体がフレームに収まった絵画のようで、ただただ美しい。音楽も最小限に抑えられており、スクリーンに集中できる演出もプラスだ。

 オダギリジョーの役作りは繊細だ。おかっぱ頭にランニングシャツ姿でキャンバスに向き合う姿は、5番目の妻を演じた中谷美紀も「生き写しのよう」と絶賛するなりきりぶり。オダギリの代表作の1つと評価されてもおかしくない。

 説明的な部分をほぼ排除しており、前半の華やかなフランス編から、戦争画家として時代に翻弄(ほんろう)される日本編へのつながりが分かりづらい。小栗監督が「伝記映画ではない」と話すように、見れば藤田の全てが分かる作品ではない。藤田や当時の時代背景にある程度の知識が必要で、敷居は高く感じる。【森本隆】

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