◆ 人生はマラソンだ!(蘭)

 1時間47分の中には主演5人の人生、市民マラソンの内実、そしてオランダ庶民の暮らしぶりがぎっしりと詰め込まれている。

 ディーデリック・コーパル監督の初映画というが、構図には工夫と奥行き。場面ごとに情報量がある。一線のCMディレクター出身らしい瞬発力の積み重ねだろう。中身が濃い。

 気だるい空気の小さな自動車修理工場で幕は開く。日本では知られていないが、俳優陣には脂ぎるほどのキャラが立つ。経営危機が明らかになり、社長以下5人は市民マラソンでスポンサー料を稼ぐという奇手で再建に乗り出す。

 事故で足を悪くした元ランナーの移民青年が指導係となり、残り4人のメタボ中年に手ほどきする。最初は1キロで息が上がり、生活習慣を正すのにも曲折がある。経緯がていねいに描かれ、説得力がある。

 家族の亀裂、ゲイ、宗教…。個々の問題がさらりと挿入され、本筋に味を付ける。多彩な糸から鮮やかな布が織り上がるようだ。中盤、元気だった社長がふいに余命宣告を受ける。大会ゴールは出来るのか。家族に仲間に「温かさ」を残す死にざまは最後の1針だ。じんと来てほっとした。【相原斎】

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