7日に放送されたNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」18話で、高橋一生さんが演じる井伊家家臣、小野政次がつぶやくせりふです。幼なじみの直虎(柴咲コウ)を裏切ったのか、あえて嫌われ者となって全力で支えているのか。12話以降、誰にも胸の内を明かさず黙々とダークサイドを貫いてきた彼の本音がようやく明らかになり、なんといいせりふだろうと胸に染みました。

 直虎、直親と子供のころからよく遊んだ井戸に1人たたずみ、今は亡き直親に本音を漏らすというシーンでした。直虎はおとわ、直親は亀之丞、政次は鶴丸。立場を超えて、つい幼名が出てしまう瞬間を切り取るのが脚本の森下佳子さんは本当にうまいんですよね。直虎を「あいつ」、あの世の直親を「亀」と呼んだ瞬間に本心が伝わってきて、子供のころから何も変わっていない優しい鶴の横顔に泣けました。

 子役時代が4週にもわたって描かれたことには賛否両論ありましたが、3人のキャラクターと切ないドリカム状態がきっちり描かれたことが、今の権力闘争や純愛に生きていると思います。山の頂上で亀之丞の笛を聞いていた、小さな3人の広々とした友情シーンがベースにあるので、信頼して見ていられる感じ。本心を立ち聞きされた動揺で「いまさら嫁にもろうてほしいなどと言うても願い下げ」とか、上から言っている政次もキュートでした。

 友情ゆえに腹を割れない2人のディスコミュニケーションが7話も続いていたので、「おなごだから守ってやらねばと考えているならお門違い。われをうまく使え。われもそなたをうまく使う」という直虎の宣言もスカッとしました。2人とも、ようやくトップ&参謀として脱皮した感じ。2人の背中を押すように、後ろで亀の笛が鳴っていたのも感動的でした。

 複雑なのか単純なのか、ややこしい政次を、高橋一生さんが心を込めて演じているのも伝わってきます。この18話に向けて行われた取材会で高橋さんは「政次という人を、僕はよしよししてあげたい」と話していました。「頭のいい人間なのに、おとわのことになるともろさがすごく出てしまうところが人間らしい」。こういう時に「直虎」ではなく自然と「おとわ」と呼ぶあたり、政次になりきって演じているんだなあと実感します。

 大国に囲まれた井伊は常に大ピンチ。「断固として戦わない」ための2人の戦いを見守りたいと思います。

【梅田恵子】(B面★梅ちゃんねる/ニッカンスポーツ・コム芸能記者コラム)