上方落語協会の桂文枝会長(72)が、06年に開館させた大阪市北区の天満天神繁昌亭は15日、開場丸9年を迎え、開演前に鏡開きが行われた。戦後初、上方悲願の常設劇場。おめでたい“誕生日”に、文枝会長の腹心で、上方落語界の“フィクサー”ともささやかれる春団治一門の桂春之輔(67)が突然、文枝会長“批判”を展開した。

 「9周年の日やいうのに会長、いてませんねん。ちょっと、いい方の仕事に行ってまんねん」

 地元商店会会長や、協会幹事長の桂米団治(56)らが酒だるの前に並ぶ中、副会長の春之輔が、文枝に代わってあいさつ。まずは、会長不在を謝罪した。

 そして、9周年のこの日から、昼席入場料を開場以来初めて、500円値上げすることもおわび。「消費税が上がっても頑張ってきましたが、(施設維持費など)出るお金には税金がかかりまして、去年、初めて赤字になりました」と値上げ理由を説明した。

 その流れで「一気に500円いうのもね…せやから、ずっと僕は(少しずつ)上げよう言うてきたんですけどね。ところが、あの会長がええ格好しはって、記者さんの前で『上げへん』と言いはってね」とも。

 さらに「値上げのときの発表も、会長は(記者会見で)俺に言え言うてね。嫌なことは全部、僕ですわ」と愚痴もまじえて続けた。

 とはいえ、互いに信頼関係は強固ゆえの放言でもある。式典後、取材に応じた春之輔は「あの人(文枝)がいてへんかったら、100%この天満天神繁昌亭はできてません。我々は勝ち馬に乗ったんです」と、文枝会長への感謝を述べた。

 実際、漫才隆盛の大阪では、戦後、落語の常設劇場はなく、上方の協会員にとっても悲願であった一方、あきらめの境地でもあった。ところが、文枝が会長に就任後、幅広い人脈と知名度をフルに生かし、日本一長いことで知られる天神橋筋商店街や、近くの大阪天満宮などと粘り強い交渉を続け、協力を得て、開館へこぎつけた。

 春之輔も、もちろん文枝会長への敬意は強く、文枝も落語仲間や各所に顔が広く、親しまれている春之輔を重用し、信頼関係は築かれているからこその“お騒がせ発言”でもあった。

 ただし、この春之輔は元来、ちゃめっけにあふれたキャラクターで、もうひとつ、毒も吐いてみせた。

 劇場には、今年3月に亡くなった桂米朝さん(享年89)が書いた「楽」の額が掲げられているが、それを「実際にもらいに行ったんは、俺1人やのに、会長は『一緒に行った』と。もう、覚えてないんですわ」。文枝会長の物忘れをネタに「だから、今のうちに(文枝の高座を)見といた方がいいですよ。じきに、対談しか出来なくなりますわ」と続け、笑わせた。