日活ロマンポルノの28年ぶりの新作「風に濡れた女」(塩田明彦監督、今年冬公開)が、スイス・ロカルノ映画祭(来月3日開幕)のコンペティション部門に選出されたことが13日、決まった。同映画祭事務局が発表した。ロマンポルノの国際映画祭コンペ出品は史上初。公式上映は同5日、授賞式は同13日。日活は今年冬からロマンポルノシリーズを復活させることを既に発表している。

 赤裸々な性描写や人間ドラマで社会現象になった成人映画シリーズが、第1弾公開から45年の時を経て、世界の注目を浴びる機会を得た。これまで国際映画祭で旧作の特集上映はあったが、グランプリを競うコンペ出品は初めて。

 ロカルノ映画祭事務局プログラムディレクターのマーク・ペランソン氏は「ロマンポルノ」について「名前から誤解されたり、笑われることも多かったが、偉大な監督たちが初期のキャリアを積んだ場」と評価しており、今回のコンペ選出を「過去の作品にオマージュをささげつつ、ロマンポルノの新しい1歩を踏み出している」と説明した。

 ロマンポルノは過去にわいせつ性が裁判で問われたこともある。塩田監督は「世間の視線も温かいものばかりではなかった。だからこそ、新作が映画祭で上映されることに心を揺さぶられる」と話す。

 「風に-」は間宮夕貴(25)永岡佑(34)のダブル主演作。性に奔放な女性ともの静かな男性という関係性が、「草食系男子」という言葉が生まれる世相を反映している。塩田監督は99年「月光の囁(ささや)き」が同映画祭コンペに出品された縁もある。日活企画編成部の高木希世江サブリーダーは「映画祭は自分たちが発掘した監督を大切にする。塩田監督の実力や作品との親和性があったのでは」と分析する。

 ロマンポルノ製作中断期間は28年間に及んだが、その間、世界でファンを持つシリーズになっていた。クエンティン・タランティーノ監督を始め、世界の映画関係者の間で旧作の評価が口コミで広がっていた。同監督は映画「キル・ビル」で、ロマンポルノ出身の風祭ゆきを起用している。

 日活は「リブートプロジェクト」と銘打ち、塩田監督のほか、園子温、中田秀夫、行定勲、白石和弥の計5人の監督の新作ロマンポルノを今年冬から順次公開予定。高木氏は「タランティーノ監督をはじめ海外の監督にも撮ってほしい」と話した。

 ◆「風に濡れた女」 都会の喧噪(けんそう)を避け、山小屋での静かな生活を楽しむ高介(永岡佑)の前に、自転車に乗った汐里(間宮夕貴)が現れる。汐里は目の前で海へ飛び込むと、高介に「今晩泊めてくれ」と懇願し「5000円でいいよ」と豊満な肉体を武器に迫る。最初はまるで相手にしない高介だったが、汐里のあふれる生命力と性欲に負け、欲望の渦に巻き込まれていく。

 ◆日活ロマンポルノ 経営難に陥った日活が1971年(昭46)に製作方針転換でスタートさせた成人映画シリーズ。全盛期は70年代から80年代前半。多い年は70作以上が上映。男女のからみを10分に1度入れる、上映時間70分前後などの“ルール”があった。低予算ながら自由な表現と製作機会を求める若手監督の挑戦の場となり、神代辰巳さん、藤田敏八さん、金子修介、相米慎二さん、根岸吉太郎、滝田洋二郎、村川透らを輩出。白川和子、宮下順子、東てる美、美保純、岡本麗らが主演。五月みどり、天地真理、大谷直子、畑中葉子、関根恵子らの出演も話題に。88年の打ち切りまで17年間で約1100本を製作。

 ◆ロカルノ映画祭 スイス南部のリゾート地ロカルノで1946年から始まった。国際映画製作者連盟公認の映画祭。毎年約500本が上映され、世界から19万人が訪れる。日本作品は54年「地獄門」(衣笠貞之助監督)、61年「野火」(市川崑監督)など4作がグランプリにあたる金豹賞を受賞。89年から功労賞に相当する名誉豹賞が新設され、09年に高畑勲監督、富野由悠季監督が受賞した。