16年に映画「百円の恋」(14年)で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、NHKドラマ「佐知とマユ」(15年)で市川森一脚本賞を受賞して一躍、人気脚本家となった足立紳氏(43)が、20年越しの思いを実らせた初監督映画「14の夜」が同年末、公開された。足立監督が日刊スポーツの取材に応じ、「14の夜」への思い、映画の元になった、自身のマル秘エピソードも明かした。

   ◇   ◇   ◇   ◇

 「14の夜」は、足立監督が自身の中学時代の体験を元にした青春映画だ。舞台は1987年の田舎町で、中学生のタカシ(犬飼直紀)は格好悪い父(光石研)にいら立ち、柔道部の仲間とつるむ格好悪い自分自身も変えたいと、悶々とした日々を過ごしていた。隣に住む大人っぽい幼なじみのメグミ(浅川梨奈)も気になる中、町に刺激的なうわさが流れ、その真相を求め、町を駆け回る物語だ。

 -監督の実話とも取れる

 足立監督 我々の14、5歳の頃の原風景です。今、どうしてもこれ、という感じじゃなくて、幾つか企画があった中、どれか自主映画でやろうと思った。嫁さんが自分で撮ろうとして200万円、ためていたんです。「百円の恋」が評判になったから「あんた、『乳房に蚊』(昨年2月に出版した初の小説)か『14の夜』のどっちかをやったら?」と言ってきました。当時、「乳房に蚊」は小説化の話が進んでいたので「14の夜」にしました。企画は8年前からあり、自分では面白いと思い、当時(関係者に)いろいろ見せた時には、特に何の反応もなかった。今回、プロデューサーを務めた佐藤現さんは面白がってくれた」

 -映画では、タカシらが大人向けの雑誌を隠れて読む場面がある。80年代の少年は欲求を満たすためのハードルがあり、乗り越えた喜びもあった。今の中学生には分からないのでは

 足立監督 中学生役の子たちは、オーディションをした際、どうしてそんなに(大人の雑誌を)見たいのか、よく分からないと言っていたんですが、彼らにはパソコンで(画像などを)見たことを履歴から家族にばれないようにするという、別なハードルがあるとも感じました。あの頃、俺らの時代は良かったぞ、面白かったぞ、と言う気はないんです。たまたま自分が中学の時って、こんな感じだったけど…という程度なんですね。

 -現代の中学生に伝えたいことは

 足立監督 今の子たちに通じるんじゃないかと思うのは、ダメな自分を何とかして変えたいという気持ち。タカシは、映画の最後で自分を変えるために勇気を振り絞る。今の14、15歳の子が、ダメな自分を変えたいがための第1歩を、どう踏み出すのかは分からないんですけど、俺もやらなきゃ、頑張るぞという気持ちになってくれたらうれしい。

 -光石研さん演じるダメオヤジは、今のお父さんにも考えさせられるキャラ

 足立監督 もろ、俺ですよね。あれくらいはダメなんで。モデルは俺のオヤジ半分、自分半分みたいな感じです。

 ◆映画の原点の1つとなったトラウマ

 -実話が映画に生かされている?

 足立監督 今でも覚えているのは、俺は野球少年でしたけど、本当に覇気がなくバットも振れなかった。一方で、うちのオヤジは、光石さん演じるオヤジみたいに遠くから見に来て、酔っぱらった時だけ監督やコーチに文句を言う。それが、すごく恥ずかしくて、試合を見に来るなって言っていたんですね。それが、ある時、オヤジが我慢できなくなって球審やるって(球場に)入って来ちゃったんですね。俺、補欠だったんですけど、監督もコーチも『困ったなぁ…じゃあ、紳のこと出さなきゃダメだな』とか言って。代打でいったんですけど、1球もバットを振れず、最後はすごいど真ん中でも手が出なくて…でも、オヤジが『ボール』って言って…四球で塁に歩いたんですよ。あの時の恥ずかしさと言ったら。オヤジも、よく『ボール』なんて言ったもので。トラウマ(心的外傷)ですもん。光石さん演じるオヤジなら、やりそうですよね(笑い)

 -タカシが笑いながら号泣する場面は、映画の中で最も印象的だった

 足立監督 大人は頑張ろうと思う一方で、諦めるという選択もできますが、普通の14、15歳は何も解決しようがない、どうしようもないんだけど生きていくしかないということがあると思う。その切なさを、どう表現したら出せるかという場面でしたが、台本には詳しく書いていないんです。主演の犬飼君には申し訳ないと思いながら、リハーサルもやらずに、自由にやってもらいました。監督としては、ちゃんとしたアドバイスをしながらやるべきだったのかも知れないんですけど、彼は彼なりに、いろいろな気分でやってくれたと思うんで…すごくいい場面だと思っています。

 ◆映画の撮影が小説版にもつながった

 -16年12月8日に発売した小説版の「14の夜」(幻冬舎)は、主人公ら中学生が大人になったところから物語が始まり、舞台も鳥取県と決まっていたり、映画とはひと味違う部分もあるが、主人公が泣く、映画と同じ場面がある

 足立監督 小説は…文章もヘタなので、あそこをどう書こうか、すごく文章にするのが難しくて、めちゃくちゃ、つたなくなっています。今回は長いプロット(あらすじ)と小説の下書きがあった上で、脚本がある。小説の下書きの時、あの場面は書けなくて、あとで書こうと思って書かなかったんですが、映画を撮って、少し文章化ができたかな、という気がしています。あの場面は、タカシが3つも4つも…いろいろなことを考えての場面だと思います。

 次回は足立監督が師事した、相米慎二監督(享年53)への思いを語る。【村上幸将】

 ◆足立紳(あだち・しん)1972年(昭47)鳥取県倉吉市生まれ。日本映画学校(現日本映画大学)卒業後、相米慎二監督に師事し、助監督を務め、脚本を書き始めた。12年の山口・周南「絆」映画祭で第一回松田優作賞を受賞した脚本を映画化した映画「百円の恋」は、東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門作品賞をはじめ国内外の各映画賞を受賞し、15年に米アカデミー賞外国語作品賞の日本代表に選ばれた。