東京・銀座の歌舞伎座は4月2日、新装開場してから1周年を迎える。新たな「歌舞伎の殿堂」は俳優らの熱演に加え、バリアフリー化や土産物の充実など観客重視の設備が評判を呼び、1年間の観客数が130万人を超えた。興行主体の松竹は手応えを感じ、ブームに終わらせないよう、俳優は舞台の一層の充実に向け気を引き締めている。

 ▽自信

 「実は不安感を持っての出発だった」と松竹の安孫子正専務は振り返る。再開場前、中村勘三郎さん、市川団十郎さんという人気俳優が相次いで世を去ったからだ。

 だが、1年間に及んだ「こけら落とし」公演では人間国宝の尾上菊五郎さんらベテランが活躍し、若手も意欲的に取り組んだ。古典とともに新作歌舞伎も上演した。

 年間観客数は目標だった110万人を上回り、安孫子専務は「面白い芝居をし続ければ、歌舞伎は安定していけると感じている」と自信も深めたようだ。

 演劇評論家の上村以和於さんは「特に最初の3カ月は第一線の俳優の大顔合わせで、今の歌舞伎の頂点を見せてくれた」と評価。今後は「若手が主軸の公演を増やしつつ、ベテランと組ませて、脇の重要な役をきちんと演じさせることも大事」と説く。

 ▽2年目

 外観や舞台の規模などは旧歌舞伎座とほぼ同じだが、内部はエレベーターやスロープなどバリアフリー化が進んだ。初めて歌舞伎座で観劇したという愛知県知多市の70代の女性は「トイレへの経路が確保されていて、イライラせずにすんだ」と、満足げにツアーのバスに乗り込んだ。

 松竹は、開場2年目の目玉商品や新企画を発表。隈(くま)取りをプリントした手拭いに包んだ菓子、歌舞伎座の幕の色をモチーフにしたエクレアなど色とりどりの商品をそろえた。

 これらの商品は、観劇チケットがなくても劇場地下広場の土産物店などで購入できる。松竹の武中雅人常務は「地下広場から(安価な)一幕見席へ、いずれは1階席で歌舞伎を見てもらえれば」と期待を込める。

 ▽危機感

 再開場直後の3カ月間、連続出演した菊五郎さんは「いつ客足が落ちるのか、危機感を持ってやっています」と冷静だ。再開場に伴うブームで初めて訪れる人たちを逃がしてはいけないと力を込める。「これからはより中身が問われる」とさらなる意欲を示す。

 ◆歌舞伎座

 1889年に開場、火災や戦災に遭うたびに建て直されてきた。1951年に開場した旧歌舞伎座は、戦後の歌舞伎公演の中心となり、老朽化のため2010年に閉場した。13年4月再開場の現歌舞伎座は高層のオフィスビルを併設。屋根の意匠「唐破風(からはふ)」などは旧歌舞伎座を踏襲し、最新の舞台装置などを取り入れた。