演歌歌手北島三郎(71)が9月30日、東京・新宿コマ劇場で座長公演の千秋楽を迎えた。娯楽の殿堂として、戦後の大衆演芸を引っ張ったコマ劇場は、今年限りで52年の歴史に幕を閉じる。座長公演として最後を飾る北島は、39年間で1790回公演を行い、400万人を超える観客を動員した。最後の舞台は、三女の女優水町レイコ(33)との親子初共演で花を添えた。

 「39年間、あの壁が天井がライトが、おれの歌を聴き、支えてくれた。昔からお世話になっている大事な友が遠くに旅立つような寂しさがあります。贈る言葉は『ありがとう』です」。芝居と歌謡ショーの2部構成で、4時間に及んだ公演ファイナルを北島は感謝の言葉で締めくくった。

 戦後の大衆娯楽の殿堂として、芸能人のステータスだったコマ劇場での初座長公演は68年。40年前の北島は32歳だった。62年に初出演した際に「いつかこの舞台を連日満員にしてやる」と心に誓ってから6年がたっていた。71年の歌手10周年記念の年に2度目の座長公演を行ってから、今年まで38年連続で「コマの顔」になってきた。「演歌という大衆の歌を歌っている自分だからこそ、ここに愛着があった。雨の日も風の日もお世話になってきたんです」

 ステージは、ラストを飾るにふさわしい豪華な演出だった。「北の漁場」では、高さ約6メートルの巨大船のへさきに立ち、コマ名物の回転ステージに気持ちよく揺られた。ラスト曲「まつり」では、幅9メートル高さ6メートルの巨大ねぶたに乗り、拳を何度も突き上げながら「これが北島祭りぃ~だよぉ~」と声を張り上げた。会場いっぱいに広がった約2000人のペンライトの海が、北島のラストショーを見守る。「まるでホタルイカみたいだよ」。寂しさをジョークでごまかそうとするその目には、キラリと光るものがあった。

 39年の歳月をかけて、前人未到の1790回公演で400万人以上の観客を動員。「毎年、また会いましょうと、ステージからお客さんと約束しているんです。ここまでやってこれたのも、お客さんのおかげです」。今年8月。北海道に里帰りした際に、亡き父母の墓前にコマ劇場の終幕を報告。そこで「お前も年なんだから、体に気を付けてこれからも頑張れ」と天国の母の声が聞こえたという。「ここに新しい劇場ができたら、ぜひステージ立ちたい」。コマ劇場は今年で消えるが、今年で47年となる北島の芸道は続く。【松本久】