大相撲史上最多32回の優勝を誇る元横綱大鵬の納谷幸喜(なや・こうき)氏(日刊スポーツ評論家)が19日午後3時15分、心室頻拍のため東京・新宿区の慶応病院で死去した。72歳だった。

 納谷氏は、大相撲人気だけでなく、子供たちに夢を与え昭和の文化も支えた。1961年(昭36)に横綱に昇進した大鵬は、巨人長嶋とともに少年雑誌の表紙を何度も飾った。同年のNHK紅白歌合戦に審査員として出演。大鵬の出演する番組は高視聴率を記録し、ドラマや映画にも特別出演した。国民的歌姫の美空ひばりさん(享年52)とは5月29日の同じ誕生日で、ともに高度成長時代の象徴。まさに昭和のスーパーヒーローだった。

 大鵬は、60年代の子供たちのヒーローだった。「少年」「冒険王」「少年クラブ」など少年雑誌の表紙を飾った。漫画「鉄腕アトム」(手塚治虫)が絶大な人気を博していた「少年画報」にもグラビアで登場した。「小学五年生」(小学館)では「まめ大鵬」という付録漫画も登場した。当時「巨人長嶋と、大鵬を表紙にすると売り上げが変わった」とまで言われた。

 人気は子供にとどまらず、老若男女に及んだ。横綱に昇進した61年のNHK紅白歌合戦では、「放浪記」の初演で注目された女優森光子さん(享年92)らと共演した。まだ視聴率調査のない時代だったが、大半の国民がテレビにくぎ付けになった。67年5月に出演したフジテレビ系の人気番組「スター千一夜」に芳子夫人と出演し、同番組の歴代4位となる36・9%の視聴率を記録した。

 俳優としても土俵同様の度胸を見せた。親と子の触れ合いを描いた60年の映画「次郎物語」(下村湖人原作)には、大豊という役名で特別出演。日本一を目指す青年を描いたテレビ朝日系連続ドラマ「どっこい大作」(73年)では、主人公が大鵬部屋に入門しようとするシーンがあり、大鵬が本人役で出演して花を添えた。

 同時期に国民的な人気を博した美空ひばりさんとは誕生日が同じだけでなく、意外な接点もあった。ひばりさんが秋田に公演に行った際、必ず宿泊する老舗旅館「榮太楼」の長女小国芳子さんと、大鵬が67年に結婚した。大鵬もこの旅館が定宿で、ひばりさんの関係者は「結婚された後もそういうご縁も含めて、横綱とよく対談などしていました」と話した。大鵬が横綱となった61年には米国ではジョン・F・ケネディ氏が大統領となったが、実はケネディ氏も大鵬、ひばりさんと同じ5月29日生まれだった。