宮崎駿監督(72)が24日、自作を見て初めて泣いたことを明かした。この日、東京・小金井市のスタジオジブリで、5年ぶりの新作アニメ映画「風立ちぬ」(7月20日公開)の完成報告会見を開いた。19日に行われた完成後最初の試写で、一緒に見た庵野秀明監督(53)から「ボロボロ泣いていたじゃないですか。号泣です」と言われると「情けない。本当にみっともないと思う」と照れ笑いを浮かべて認めた。

 涙には理由があった。映画は、零式艦上戦闘機(ゼロ戦)を設計した実在の人物、堀越二郎を描いた。08年に漫画による発表を構想したが、同年のリーマン・ショックによる世界同時不況で、ファンタジーを簡単に作ることが出来ない時代と感じ、模索が続いた。09年に月刊模型誌で漫画の連載をスタートさせ、10年夏に鈴木敏夫プロデューサー(64)から映画化を提案された。趣味で描いた漫画を映画化することへの抵抗、子供のためのアニメを、戦争が題材の大人向きの内容にしていいかと悩んだ。

 映画化を決意したが、絵コンテを書き上げた翌日に東日本大震災が発生。製作を続けるべきか悩んだ。それでも「力を尽くして限られた時間を一生懸命生きる」という思いを届けるため、関東大震災や戦争が起きた激動の1920年代を舞台に、実在の人物を掛け合わせて描くなどのアイデアも駆使して作品を完成にこぎ着けた。

 この日は「縁や長い間の積み重ねがあってできた映画なので不覚にも涙を流した」と笑顔を見せた。主人公の声優を務めた庵野監督から「72歳を過ぎて、ちょっと大人になった」と言われ「やっと20歳過ぎたらしいよ」とうれしそうに笑った。【村上幸将】