身も心も温めてくれる「深夜食堂」が、約2年ぶりにスクリーンに帰ってくる。映画「続・深夜食堂」(松岡錠司監督)が11月5日に公開される。主演の小林薫(65)演じるマスターが、こぢんまりした厨房(ちゅうぼう)で手際良く作る料理は、家庭料理に生かせるヒントが詰まっている。その中から劇中のメニューの1つ、焼き肉定食の作り方を紹介する。

 人が1人、ようやく行き交うことができる狭い路地を入ると、濃紺の地に、真っ白な「めしや」と書かれたのれんがかかった店がある。人々は、その店を「深夜食堂」と呼ぶ。営業時間は深夜0時から朝7時までで、品書きには

 豚汁定食 六百円

 ビール(大)六百円

 酒(二合)五百円

 焼酎(一杯)四百円

 酒類はお一人様三本(三杯)まで

しか書かれていない。マスターは店を訪れた客に、決まってこう言う。

 「メニューはこれだけ。あとは勝手に注文してくれりゃあ、できるもんなら作るよ。ってえのが俺の営業方針さ」

 昨年1月公開の映画第1作同様、今作にも3品が登場する。そのトップバッターが「焼き肉定食」だ。喪服姿で“めしや”に来た女性編集者の赤塚範子(河井青葉)から「例のヤツ、お願いできますか」と言われたマスターは「あいよ」と言い、下味をつけた豚肉をタマネギと一緒にフライパンで炒めて、最後にもやしを入れて仕上げた。

 東映本社社員食堂の藤間肇チーフに再現してもらった。藤間さんは、タレにつけた豚肉と玉ネギをフライパンに投入。「タレに10分くらい漬け置きします。しょうが焼きの焼き肉風みたいな感じ」。さいばしを使ってかき回すように炒めるが、手順に大事なポイントがあるという。

 「フライパンであおるように炒めて、最後に、残った漬けダレと、もやしを入れてパッと仕上げます」

 家庭で肉野菜炒めなどを作る際に、肉とタレを一緒に炒めがちだが、それはNGだという。

 「肉を先に入れないと、タレに先に火が通るのでなかなか焼けない。タレだけが焦げ、煮詰まって味が濃くなってしまう」

 最大のポイントは、最後に入れて軽く火を通す、もやしだという。

 「もやしを最後に入れ、シャキシャキ感が残る程度に火を入れます。もやしは普通、お店はボリュームを増やすために入れるんですが、このレシピは少ない量で、あえて食感を出すために入れたと思います」

 実食してみた。にんにくの香りが食欲をそそる。食べてみると、にんにく特有の辛さは感じず、リンゴのフルーティーな甘さが、さわやかだ。もやしのシャキシャキした歯触りと香ばしさが加わり、混然一体となったうまさが口の中いっぱいに広がる。タレごとご飯にかけて食べると、米の甘みとリンゴと玉ネギの甘さのハーモニーを楽しめる。

 藤間さんは最後に、作り方をまとめた。

 「一番合うのは豚肉。ロースや3枚肉もおいしいですが、牛、鶏、イカなど何でも合います。にんにくとリンゴ、玉ネギはすり下ろしたものの方がいいです。タレを準備する時間を含め、15分もあれば作れます。レシピ通りやれば、誰でもできる。家庭の奥様にもってこいのメニューです」

 取材前に見た試写でも作る手順、できあがりは全く同じだった。見てから作るか、作ってから見るか…。家庭の台所と、映画館の大スクリーンがつながるという、なかなかない体験ができること請け合いだ。【村上幸将】

<劇中メニュー作り方紹介>

 ▼材料

 豚小間肉 300~400グラム

 玉ネギ 2分の1個

 もやし 50グラム

 サラダ油 適宜

 (タレ)

 しょうゆ 50cc

 みりん 35cc

 酒 35cc

 砂糖 大さじ1

 すりおろしにんにく 小さじ1

 すりおろし玉ネギ 大さじ1と2分の1

 すりおろしりんご 大さじ1と2分の1個

 ごま油 大さじ2分の1~1

 ▼作り方

 (1)タレの材料をすべて合わせる。

 (2)玉ネギはスライスする。

 (3)容器に豚小間肉、玉ネギを入れてタレを加えて漬けておく。

 (4)熱したフライパンにサラダ油をひき、漬けダレを切った豚小間肉、玉ネギを炒める。火が通ったらもやし、残りの漬けダレを加えて炒める。

 (5)せん切りキャベツ、トマト、パセリなどお好みの付け合わせを盛ったお皿に盛り付ける。

 ▼ワンポイントアドバイス

 数種類のすりおろしを使うことで肉も柔らかく仕上がります。炒める時に漬け汁は入れず、具だけで炒めることで肉もよく焼け、タレの風味を生かせます。