大腸がんの検査方法や内視鏡治療、外科治療について書いてきました。食事や飲酒、運動など生活習慣にどんなに気をつけていても、大腸がんを完全に避けることはできません。国立がん研究センターのデータでは、2015年に年間約13万人が大腸がんにり患し、約5万人が大腸がんで亡くなっています。

 早期に発見することで、大腸がんは根治できます。私たち内科医が主に担当している大腸カメラの先端から道具を出して行う内視鏡治療は目に見えて進歩しています。以前は外科の先生に開腹手術をお願いしていたがんも、内視鏡で取れるようになりました。

 外科の手術も進歩しており、傷口は小さくなり患者さんの負担は軽減されています。早期に診断されるケースが少しずつ増えていますが、依然として大腸がんの大半はかなり進行した状態で発見されます。進行した状態で見つかれば治療は難しくなってしまいます。

 少しでも早くがんを発見して患者さんが望む治療を提供するためには、症状がない状態で早期に検査を行うことが必要です。大腸がんの検査はつらそうで怖い、というイメージから、大腸カメラを避けている方が多いのが実情です。

 私が消化器内科医になったのは、内視鏡の先端から胃がんや大腸がんを治療する方法に研修医時代に感銘を受けたからです。これならおなかを切らずに大腸がんを治せると興奮したのを覚えています。しかし、実際には、その段階でがんが見つからないと治療はできません。

 治療法を学んだ今、「症状が出てから検査を考えれば良い」と思う一般の方の考えを少しでも変えなければいけないと強く思っています。外来では、大腸がん以外の病気で通院されている患者さんにも「50歳を超えたら1度は大腸カメラを考えて下さい」とよく話しています。

 働き盛りの40代、50代の皆さんが、症状がないのにわざわざ1日予定を空けて大腸カメラを受けることはなかなかありません。大腸カメラは進歩しており、以前より苦痛を軽減するさまざまな工夫がされています。このコラムを機会に、ぜひ受診していただければ幸いです。(おわり)

 ◆池谷敬(いけや・たかし) 1981年(昭56)9月21日、静岡県出身。浜松医科大卒。2012年から東京・中央区の聖路加国際病院勤務。内視鏡で粘膜下層を剥離するESDという手法で、大腸がんに挑んでいる。