自民党総裁選は20日、投開票され、安倍晋三首相(64)が石破茂元幹事長(61)を破り、3選を決めた。首相は国会議員票の8割を押さえたが、地方票の得票率は55%。「安倍1強」にもの申せない永田町と、投票でもの申した地方がねじれ、勝ち方の質にこだわった首相陣営が目指した「圧勝」に至らず、求心力にかげりも見え始めた。次世代リーダーの1人、小泉進次郎筆頭副幹事長(37)は、石破氏に1票。「違う声を強みに変える自民党でなければ」と1強に染まる党に一石を投じ、変化を促した。
国会議員票と地方票で553票。254票の石破氏にダブルスコア以上の差で3選を決めた首相だったが、満面の笑みはなかった。
「あと3年重責を担う。身の引き締まる思いだ」。20日夕の会見で、首相は「現職だから楽な選挙はない」としながらも、票の多さを強調した。「党員党友の皆さまに、6年前の(87票の)約2・5倍をいただくことができた」「現職が総裁選に臨んだのは(03年の小泉純一郎氏以来)15年ぶりだが、その時、小泉氏の得票率は6割。99年の小渕恵三氏も68%。今回、これらを上回る7割近くの得票をいただけた(実際は約68%)」と強調。「皆さんの支持こそが、リーダーシップの源流だ」と訴えた。
「完膚なきまでにたたきつぶしての勝利」。首相陣営は、国会議員票で8割超の340票台を目指し、石破氏を圧倒する勝ち方を目指したが、想定外の善戦を許した。当初、50票の予想だった石破氏は、20票も上乗せ。首相支持の議員票は329票にとどまり、首相支持が見込まれた一部議員が石破氏に回ったとの見方もある。投票直前の出陣式に出席した333人よりも、4人減。進次郎氏の動向が影響した可能性もある。
議員票より深刻なのが党員、党友の地方票だ。得票率は目標だった55%に何とか届いたが、首相陣営では「もっと伸びると思った」と、衝撃が広がる。
来年は、統一地方選と参院選がダブルでやってくる。首相の地方票の獲得状況は、自民党の選挙情勢を占うバロメーターでもあった。党員の間で首相支持が伸び悩めば、一般の有権者ではさらに支持が低迷する恐れもある。モリカケ問題を含む首相の政治姿勢への批判は、依然根強いからだ。
石破氏が勝った10県のうち、茨城以外の9県は、来夏の参院選で与野党が激突する1人区。アベノミクスの効果が地方に波及していない不満に加え、モリカケ批判も重なり、首相が「選挙の顔」を続けることへの不安がにじむ。党員らの投票率は、61・74%。関心の低さも露呈した。
首相は「すぐに仕事に取りかかる」と述べ、憲法改正への意欲をにじませたが、夜のNHK番組では、自民党が憲法改正案を秋の臨時国会に提出した場合でも、会期中の発議は困難との認識を示した。今後は、外交でも厳しい判断が待ち受ける。内閣改造・役員人事で、石破氏や石破派の起用を問われると「適材適所」と述べるにとどめた。露骨な冷や飯人事なら、さらに批判される恐れがある。
首相の任期は残り3年。今日が「終わりの始まり」でもある。絶対勝利が実現できず、「従来の安倍1強はもう見込めない」との声も出ている。【中山知子】