<阪神8-2広島>◇12日◇甲子園

 久しぶりの六甲おろしや~。最悪6連敗でBクラス転落危機に立った阪神で、2年目藤浪晋太郎投手(20)が投打に奮闘した。自己最速157キロをマークした速球で初回無死満塁も無失点で脱出。4回の6点猛攻には左中間適時二塁打で参加した。8安打2失点の完投で1カ月ぶりの9勝目を挙げ、自身の連敗も4でストップ。2位広島をたたき、浮上の夢をつないだ。

 藤浪の最大のヤマ場はいきなり訪れた。1回、四球と2安打で今季初の無死満塁。5試合連続で初回に失点中だった。藤浪は明らかにギアを入れ替えた。腕の振りは「剛」。頭は「柔」-。苦手な左打者に、果敢に内角を突いた。4番松山を投ゴロ併殺に打ち取り、キラには四球を与えたものの自己最速の157キロを記録。最後は田中を左飛に打ち取り、大きく両手を広げ、グラブをたたいた。

 藤浪

 あそこを抑えないと先行されてしまう。不利になると思って思い切って投げました。粘れてよかったです。

 久々の快投は「柔」がもたらした。実は7敗目を喫した8月28日巨人戦で「ちょっとしたクセ」が見つかっていた。その日は試合途中から投球フォームを変更。振りかぶらないノーワインドアップからワインドアップ気味に変えて応急処置した。6日の試合はまだ同じフォームだったが、この日はノーワインドアップに戻っていた。

 フォームに限らず、関係者も口をそろえて「対応力、器用さがある」と柔軟性を認める。短期間でクセをかき消して自信を取り戻すと、剛球はより威力を発揮した。援護で点差も広がり余裕ができた。9回8安打2失点。137球で悠々と甲子園初完投を決めた。

 体の強さは「剛」だろう。連敗中も「ボール自体は悪くない」と口にしてきた。調子に不安定さがあまりなく、この日も130球を超えてなお150キロを記録した。大きな故障もなく、ローテーションを守る。この試合で今季の投球回を150回とし、第1目標だったシーズン規定投球回数を突破した。

 藤浪

 いいボールがいい結果になってよかった。規定は最低限ですね。完投は自分なりにうれしい。

 勝ち負けは運の要素が強いというのが持論だが、約1カ月ぶりの9勝目にはさすがに笑顔がはじけた。チームの連敗を6で止め、自身の連敗も4で止めた。そして、2位広島と2・5ゲーム差に縮めた。「CSもあるし、調子を上げていきたい。シーズン通してやってきたことを出したい」。チームの泥沼を救って立ったお立ち台。表情には剛と柔が共存していた。【池本泰尚】