いきなりですが、みなさん「デロリアン」ってご存じですか?

 1985年(昭60)に公開されたSF映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズで、ブラウン博士(通称ドク)が発明したタイムマシンである。90年までにパート3が制作されるほどの大ヒット映画。89年公開のパート2の舞台は未来。すべての技術が進歩し、天気予報では雨が降るタイミングを秒単位で当て、スケートボードで空を飛ぶこともできる。夢のような話で、個人的にも未来への期待を膨らませた記憶がある。

 さて、本題に入ります。

 日本サッカー協会はこのほど、2030年までの目標を設定し、大仁邦弥会長自らマスコミの前で発表した。「2015年宣言」だ。日本代表は30年までにW杯4強に入り、50年までにW杯で優勝する、といった内容だ。さかのぼって10年前には「2005年宣言」をして、15年までの約束として「日本代表チームは世界でトップ10のチームになる」と発表した。

 しかし一部選手が優勝を目標に掲げて臨んだ14年W杯ブラジル大会では1勝もできず(1分け2敗)1次リーグ敗退。現在のFIFAランクは50位台と、約束とはほど遠い位置にいる。6月のW杯ロシア大会アジア2次予選のシンガポール戦ではホームで0-0で引き分け、今月の東アジア杯では最下位に沈んだ。世界ところか、アジアでも勝てない。

 日本サッカー協会の宣言には、どのマスコミも大きく反応しなかった。理事会で何度も話し合って、修正を重ねてできた「力作」だが、テレビも新聞も反応は鈍い。当然と言えば当然の結果だ。この宣言は、達成できなくても誰も責任は取らない。ただ目標をぶちまけるだけで、自己満足感が強い。15年宣言の結果が出る30年には大仁会長はすでに協会を離れているはずで、責任の取りようがない。05年宣言した当時の川淵三郎会長も、今やバスケットボールの復興に専念中だ。

 宣言するのは勝手だが、日本サッカー協会はもう少し、自分たち団体の社会的影響力の大きさを考えて行動した方がいい。日本中のどれだけの人が日本代表を応援し、どれだけの少年が将来の日本代表を夢見て、つらい練習に耐えて日々汗を流しているか。責任なしの自己満の宣言をしたなら、一日でも早く潔く頭を下げて、より現実的な目標に修正した方が、ましだ。

 冒頭の話に戻します。

 バック・トゥ・ザ・フューチャー・パート2でデロリアンが到着した未来は、実は2015年、つまり今年である。天気予報が間違えることもあるし、スケートボードは空を飛ばない。26年前にロバート・ゼメキス監督が思い描いた近未来像は、まだ現実になっていない。

 監督の予想が外れても、誰も26年前の映画を非難しない。タイムマシンが登場する夢物語だからである。しかしサッカーは、そうはいかない。我々の生活の一部として定着しているからだ。目標を大きく持つのは、悪いことではない。しかし「宣言」と「約束」という言葉は「目標」とは違う、より重いものなのだ。

 ついでに、もうひと言。ハリルホジッチ監督は、東アジア杯の中国戦の前に「すべての責任は私にある」と話した。責任が自分にあるというなら、どう責任を取るかも言うべきではないだろうか。社会的に影響力のある人なのだから「責任」という言葉を軽々しく使ってほしくない。【盧載鎭】

 ◆盧載鎭(ノ・ゼジン) 1968年9月8日、韓国・ソウル生まれ。96年からサッカーを担当。98年フランス大会から14年ブラジル大会まで、06年ドイツ大会を除いて4度W杯取材。2児のパパ。