キングを見て思い描いた夢が、ピッチを越えて形になろうとしている。浦和FW李忠成(31)は、このほど発足したサッカー選手による寄付団体「スプーンファウンデーション」の中心に立つ。インターネットを通じて選手、サポーターから集めた募金は、世界食糧計画(WFP)に寄付し、給食となって開発途上国の子どもたちに届けられる。李は4日の発足会見で「このプロジェクトを通じて選手の思い、スポーツの力が、給食として発展途上国や貧困地域の子どもたちの未来を切り開くことにつながります。寄付金が、子どもたちの笑顔につながるものになればいいと思います。これから、みなさんの応援が必要です」と訴えた。

 同様の活動が米国でも今後スタートする予定だ。当初は米国から始まる計画だったが、日本で想像を超えるスピードで100人の選手から賛同が集まり、一足早い活動スタートにつながった。李は「1人の力は本当に小さい。やってみて分かった。数多くの選手の仲間たちが協力してくれてスタートできた。本当に誇りに思う」と集まった同志に感謝を忘れない。

 李がいつも口にする。「スポーツには人に夢や希望を与えられる力があると信じている」。浦和の前線の一角を担うストライカーもまた、サッカーに希望をもらった1人だ。幼い頃は「キング・カズ」ことFW三浦知良の大ファン。小学2年のころにはホテルで出待ちをしたこともある。ファンに笑顔でたまに手を振り、目の前をさっそうと通り過ぎていったカズ。輝いていた。ファンの人だかりのなかで必死に見上げたあの光景は、今も鮮明に覚えている。「あの姿を見て僕もスポーツ選手になりたいと思ったし、かっこいい人間になりたいなと思った」。あのときの自分と同じ思いを、1人でも多くの子どもに与えたい。ピッチを超えて、スポーツ選手の使命を感じている。

 李はこれまでも、地震があった被災地に訪れるなど、慈善活動に力を注いできた。今回の活動は恵まれない子どもたちを支援すること。「自分ももちろん小さいときに、大変な思いはたくさんしましたよ。でもそれが今の糧になっている」。幼いころからの経験と出会った人々に支えられたことへの感謝が、李忠成という人間を作った。「子どもたちへの純粋な思いが形になることがいいと思う」。給食は1食約30円と言われる。今後はリーグ戦でゴールを決めるごとに5万円を寄付するというから、1得点で1500人以上の子どもに給食が届く。

 最初の活動は李が行った。「日本一を目指してともに攻め、守ったサポーターとチームのみんなの思いが詰まったお金」として、優勝した昨年のルヴァン杯のMVP賞金100万円を寄付した。将来は海外でプレーする選手も巻き込み、100年以上続く大きなプロジェクトにすることが目標だという。「WFPの給食を食べてプロサッカー選手になったという子が1人でも増えたらいいな」。この思いもいつの日か形になることを、李は心から信じている。【岡崎悠利】


 ◆岡崎悠利(おかざき・ゆうり)1991年(平3)4月30日、茨城県つくば市生まれ。青学大から14年に入社。16年秋までラグビーとバレーボールを取材し、現在はサッカーでおもに浦和、東京V、アンダー世代を担当。