スポーツの持つ魅力をあらためて感じた。

 1月21日に全国高校サッカー選手権で初優勝を果たした前橋育英が前橋市内で優勝パレードを行った。

 地元商店街を利用した約1キロにおよぶ道中には監督、選手らをひと目見ようと人が殺到。大きな混乱には至らなかったが、商店街にはスムーズな通行が困難なほどの人で埋まっていた。同校はここ4大会で3度決勝に進出。2度阻まれ、やっとの思いでつかみとった優勝の喜びを、地元民たちもしっかりと共有していた。

優勝パレードで声援を受ける前橋育英の選手たち(2018年1月21日撮影)
優勝パレードで声援を受ける前橋育英の選手たち(2018年1月21日撮影)

 パレードの光景を見て最も驚いたのは、山田耕介監督と参加した選手たちだろう。前橋市によると、同市内でパレードが開催されるのは全競技、団体などをみても初で、前例がない。「人が集まるのだろうか」。山田監督や選手らはそんな不安を一同に抱えていた。

 しかし、ふたをあけてみれば目視では到底数え切れない人、人、人。それも学校の生徒や関係者だけでなく、地域のお年寄りや小さな子どもたちまで、老若男女が幅広く集まり、選手らに祝福の声をかけた。一部報道では約3万人とも言われた観衆と選手の間にロープなどの仕切りはなく、自由に近づくことができた。選手らは道中で求められたサインや握手、写真撮影にできる限り応じ、中でも大会得点王のFW飯島陸(3年)の人気はすさまじかった。握手やサインを求める人が途切れることがなく、前へ進む列から取り残され、最後方で人混みに埋もれていた。そんな飯島の様子を、列の最後方で一緒に歩いていた山本龍前橋市長らが笑顔で見守っていたのが印象的だった。

 前橋育英と言えば、野球部も13年に夏の甲子園を制覇したが、その際はパレードは行われなかった。高校スポーツはあくまで教育の一環で、パレードなどはふさわしくないという声もある。そうした賛否両論それぞれに納得できる部分はある。しかし、この日の光景を見て、高校スポーツでもパレードは開催してもいいのではないかと感じた。

優勝パレードでファンに囲まれるFW飯島(2018年1月21日撮影)
優勝パレードでファンに囲まれるFW飯島(2018年1月21日撮影)

 前述の通り、今回のパレードでは、幅広い世代が多く集まり、中には涙を流しながらその光景を見つめる人もいた。パレード後に行われた前橋市市民栄誉賞顕彰式の会場では、式前にスクリーンに前橋育英の大会中の試合映像が流され、決勝戦の得点シーンが流れる度に見ていた来場者らから何度も拍手と歓声が起こった。来場者に聞くと「育英の戦いぶりに勇気をもらった」と話す人が多かった。選手らも、パレード序盤は360度、全方向から飛んでくる激励や祝福の声に半ば戸惑いの表情を見せていたが、終盤には全員が笑顔だった。

 戦った者と、それを支え応援した者、そして地元の街が一体となって喜びを共有できる催しとして、パレードはこの上ないと個人的には思う。今回、パレード開催を提案したのは群馬県勢初優勝と、前橋育英の歩んだストーリーに深く感動した山本市長であり、行政と、警備する警察らの協力をしっかり受けられるのであれば、開催することは悪くない。優勝の喜びをさらに増幅させる何かが、この日の光景から感じられた。

 決勝戦で決勝ゴールを挙げたFW榎本樹(2年)は「想像以上ですね。またやりたいです」と振り返り、全国優勝の重みを身を染みて感じとった。高校生活3年間の全てをサッカーにささげ、それでも1度できるかできないか。10代の若いうちに、そうした催しから何かを感じ取る経験も大切な教育なのではないか。

 パレード会場には、在校時は同校サッカー部に関与していなかったにも関わらず、わざわざ足を運んで涙した同校OBの方々もいた。「山田先生に教えてもらっていた」。そう口にする方も多かった。教師としても30年以上同校に勤め、教頭などを経て今年から校長となった山田監督、いや、山田先生が悲願の全国優勝を手にしたことのインパクトも大きかった。

 高校生であろうが、プロであろうが関係ない。筋書きのない幾多もの痺れる試合を制して優勝した前橋育英の戦いぶりが感動を呼んだ。そして、監督、選手らの不安をよそに多くの人が集まり、パレードをはじめとした祝福イベントは大いに盛り上がった。その事実が、彼らの活躍がその舞台にふさわしいものだったことを証明した。【松尾幸之介】

優勝パレードで手を振る前橋育英の山田耕介監督(2018年1月21日撮影)
優勝パレードで手を振る前橋育英の山田耕介監督(2018年1月21日撮影)

 ◆松尾幸之介(まつお・こうのすけ) 1992年(平4)5月14日、大分県大分市生まれ。中学、高校はサッカー部。中学時は陸上部の活動も行い、全国都道府県対抗男子駅伝競走大会やジュニアオリンピックなどに出場。趣味は温泉めぐり。