連覇に挑むなでしこが、16強による決勝トーナメント一番乗りを決めた。日本(FIFAランク4位)はカメルーン(同53位)を下し、2連勝でC組2位以内を決めた。8日(日本時間9日)の初戦スイス戦で左足首を骨折したMF安藤梢(32)が車いすで観戦。安藤と同郷のDF鮫島彩(27=INAC神戸)が先制点を、安藤の代役のFW菅沢優衣香(24=千葉)が追加点を決めた。16日(同17日)のエクアドル戦に引き分け以上でC組1位突破が決まる。

 安藤のために-。なでしこは結束した。

 試合前のロッカールームに、左足をギプスで固定した安藤がいた。表情には出さない安藤の悔しさを胸に23人全員が肩を組んだ。その中で、主将のMF宮間は「アンチ(安藤)の分も、気持ちだけでなくプレーで見せよう。心に響くようなことをしよう」と叫び、鼓舞した。

 円陣が解けると、安藤の代役の菅沢は安藤とハイタッチ。さらに、W杯初先発の緊張をほぐしてもらおうと「パワーをください」とお願いし、約10秒間抱き締めてもらった。試合直前には、安藤のユニホームを手にしたMF澤がピッチ脇で控え組だけの円陣を組み、ベンチでは自分の隣に背番号7のユニホームを並べた。全員が左足首骨折と引き換えに初戦のスイス戦でPKを獲得した安藤と一緒に戦った。

 背負うものが大きいほど、なでしこは力を発揮する。前半6分、今大会初先発の3人が鮮やかに連動した。DF近賀のパスを受けたMF川澄が右サイドから低いクロス。定位置の左サイドバックではなく、左MFで先発した鮫島が速さを生かしゴール前に詰めた。「触れば入るようなボールが来たので、ちゃんと決められて良かった」。4年前、安藤と一緒に栃木・宇都宮市の「市長特別賞」を受けた鮫島のスライディングシュートで先制した。

 前半17分には、菅沢が本領を発揮した。MF宮間のクロスをファーサイドで頭で合わせ追加点を奪った。「緊張したけど、アンチさんに注入されたパワーが出たのかと思う。アンチさんみたいなプレーは出来ないですけれど、自分なりにチームのためにこれからも貢献したい」。昨季のなでしこリーグ得点王が安藤の穴を埋めた。11年ドイツ大会では準決勝で初先発した川澄がヒロインになったように、24歳が自信を深めた意味は大きい。

 勝利の瞬間、選手は真っ先にスタンドの車いす席で見守っていた安藤を探し、喜びを分かちあった。宮間は「大会中でも病院に行かなくてはいけない。試合の日だけテレビで見てくれるように安心させたい。1位通過してアンチの励みにもしたい」と決意を新たにした。優勝候補の米国、ドイツが引き分ける中、唯一の2連勝で決勝トーナメントに一番乗り。近く帰国して手術を受ける安藤に金メダルを届けるため、なでしこは、さらに固い絆で結ばれた。【鎌田直秀】