日本代表FW本田圭佑(29=ACミラン)が国際Aマッチ通算30得点目でW杯アジア2次予選初勝利を呼び込んだ。カンボジア戦の前半28分、0-0から左足の強烈なミドルシュートで相手ゴールをこじ開けた。相手GKの両腕をはじき飛ばすような一撃。この先制弾で、チームに勇気と落ち着きを与えた。

 本田が力でねじ伏せた。シンガポール戦から続くW杯2次予選の無得点は同戦ロスタイムを含め計120分を超えていた。嫌なムードが漂い出した前半28分。ゴール右45度付近から左足でボールの位置を確認するよう整えてのミドル弾。無回転のまま相手GKが上げた両手をはじきネットを揺らした。国際Aマッチ通算30得点目。節目のゴールがチームを落ち着かせた。

 喜ぶでもなくその場で仁王立ち。味方も一瞬、駆け寄ることをためらうほど。自分の時間だとばかりに、静かに左胸のエンブレムにキス。両腕を突き上げ喜ぶハリルホジッチ監督とは対照的にクールだった。試合後も「正直入るとは思わなかった」と表情を変えずに言った。

 しっかり“エサ”をまいていた。開始から同じような位置で次々とクロスを上げ続けた。これでもかとばかりに執拗(しつよう)に。柔らかい弾道を刷り込み、ここぞでの一撃。好守連発の相手GKもこの時だけは対応が物足りなかったが、一連の効果的な流れを「緩急の1つ」と表現した。

 速攻一辺倒での引き分けから「ひねったようなプレー、わざとテンポを変えるようなプレーというのも前回の反省を生かしてやりたいと思います」と話していたが、ひねりなしのド直球。無回転だがほとんど変化しなかった。ブレない男そのままの一撃だった。

 簡単な勝利ではなかった。「それぞれの所属チームが相手を圧倒するチームではない。パッと集まって、いざこういう大事な試合でやってみて何もかもうまくいくわけではない」。相手と厳しくしのぎを削る欧州とはまた違う、格下とのアジアでの戦いの難しさ。珍しく言い訳めいた本音ものぞいた。ピッチ上で起きることは、大きな差のあるFIFAランク通りだとも限らない。これもまた現実だった。

 左足を武器に、名門ACミランの10番を勝ち取るまでに成り上がった。「俺の右足は階段をのぼる時に役立つくらい」と自嘲気味にこぼしたことがある。その言葉の裏にあるのは、左足への絶対的な自信。ハリルホジッチ監督は「(サッカーに)魔法のつえはない」と言ったが、背番号4の左足が苦境を救う魔法のつえだった。【八反誠】