【バンコク(タイ)5日】日本代表のバヒド・ハリルホジッチ監督(64)が笑顔を捨てて、進退問題の浮上を未然に防ぐ勝利を目指す。日本(FIFAランク49位)は今日6日、W杯アジア最終予選の第2戦タイ(同120位)戦に臨む。1日のUAE戦でまさかの黒星発進となったチームを立て直すべく、指揮官は「笑顔禁止令」まで敢行した。なりふり構わず、敵地で勝ち点3をもぎ取る。

 バンコクの高層ホテル最上階。タイ戦の公式会見に、ハリルホジッチ監督は硬い表情で現れた。「1試合目が終わって、かなり悲しみましたが、元気を取り戻さないといけなかった」。いつもの威勢のよさはない。1、2度だけ、口の端だけでほほ笑んだ場面はあったが、心からの笑顔は最後までなかった。

 笑顔の封印を課したのは自分にだけではない。UAE戦後、選手に「今日は笑顔を見せるな」と命じた日まであった。それほどショックは大きかった。最終予選初戦のUAE戦でまさかの敗戦を喫した。日本がW杯アジア最終予選のホーム戦で敗れたのは、97年9月28日韓国戦(1-2)以来19年ぶりで、中東勢に敗れるのは初。埼玉スタジアムでのW杯予選の「不敗神話」も消滅した。

 しかも、最終予選が現行方式になった98年フランス大会以降、初戦を落とした国の突破例がない。タイ入りする際などでも、ハリルホジッチ監督は周囲に笑顔を向ける余裕はなかった。

 何とかしなければならない。指揮官は連日、選手を集めてビデオミーティングを敢行。タイの選手の特徴や、攻守の戦術の傾向を徹底してたたき込んだ。FW岡崎が不動の地位を築いていた1トップに、快足のFW浅野を起用する準備を進めるなど、選手起用の方針も見直した。

 選手の疲労を回復させるべく、思い切った策もとった。UAE戦翌日の2日、タイ入国後初の練習をした3日と、走り込み中心の軽めの調整にとどめた。その一方で3日、バンコク市内の日本料理店で食事会を設けた。夜遅い時間になったが、それでも何とか心機一転を、と強行した。

 4日に行った戦術練習は1時間ほどで切り上げた。負荷を軽減したことで「フィジカル面に関しては1試合目よりかなりよい状況」と一定の手応えを得た。主将MF長谷部は「だいぶ笑顔は戻ってきたような気がします」と話したが、5日夕刻の公式練習から引き揚げる際も、ハリルホジッチ監督の眉間には深いしわが刻まれたままだった。

 めきめき実力を伸ばしてきた難敵とはいえ、相手は02年日韓大会の予選以来、最終予選進出がなかったタイ。敗れれば、自らの進退問題にも発展しかねない。夜も気温30度超、6万5000人で埋まるアウェーの会場で、何としても結果を出さなければならない。

 ◆FIFAランク100位以下との対戦 49位の日本は120位のタイと対戦。93年8月の同ランク制定以降、日本がW杯予選で100位以下の国と対戦するのは今回が24試合目で20勝2分け1敗。引き分けの2試合は加茂監督が率いた97年10月4日のカザフスタン戦(112位)と、ハリルホジッチ監督が率いた15年6月16日のシンガポール戦(154位)。唯一の黒星はザッケローニ監督が率いた11年11月15日のアウェーでの北朝鮮戦(124位)。最終予選に限ると1勝1分け。97年10月4日、敵地でカザフスタンと引き分けた後、加茂監督は解任された。