日本代表MF山口蛍(C大阪)が、劇的決勝弾で窮地の日本を救った。引き分け以下ならバヒド・ハリルホジッチ監督(64)の進退問題が浮上しかねない日本(FIFAランク56位)はイラク(同128位)に苦戦し、同点のまま後半ロスタイムに突入。同50分に、FKのこぼれ球を26歳の誕生日を迎えた山口が右足ダイレクトで決め、2-1で辛勝した。日本は11日オーストラリア戦に向け、今日7日に敵地に移動する。

 右足に祈りを込めた。同点のまま突入した6分間の長いロスタイム。左FKのクリアボールが、途中出場の山口へ向かってくる。「これが最後だ。思い切り振り抜こう」。浮かさないように、力強く、丁寧に-。右足から放たれたダイレクトボレーは、DFの間をすり抜けてゴールネットを揺らした。5万7768人の大観衆が沸く。後半49分25秒。この日、26歳の誕生日を迎えた男が窮地の日本を救った。

 「こぼれてくると思って準備をしていた。入って良かった。世界を見渡しても、ボランチは点を取る。点を取らないといけないという思いはありました。これからのサッカー人生、何歳までやるか分からないけれど、できる限り長くやりたい中で、26歳の第1歩はいいスタートが切れた」

 埼玉スタジアムのメインスタンドから向かって左側。日本サポーターが陣取るゴールには、神が舞い降りる。04年2月18日の1次予選オマーン戦の久保竜彦、05年2月9日の最終予選北朝鮮戦の大黒将志、11年9月2日の3次予選北朝鮮戦の吉田麻也。日本を救った後半ロスタイムの劇的弾は、全て左側のゴールに吸い込まれている。「ここまで劇的なゴールは経験がない」。武者震いするほどの興奮が、山口を包み込んだ。

 どん底からはい上がった。昨年末にドイツのハノーバーに移籍しながら、たった半年でJ2のC大阪に復帰。同僚だった清武、酒井宏に何度もドイツに残るよう説得を受けた。だが、どうしても海外の水が合わなかった。ハリルホジッチ監督からは「A代表で先発を取るのは難しい」と見限られた。山口は「僕はここで結果を残して、認めてもらうだけ」。一時は「代表は考えられない」とまで言ったが、挫折を味わった男が劇的勝利を生んだ。

 「まずはW杯の切符を取ること。まだまだ、その道は長い。1つずつ(勝ち点を)取っていくしかない。次のオーストラリアに負けたり、引き分けてしまうと、今日苦しんで勝った意味がなくなってしまう」

 「どんな暗闇でも明るい光を放てる子に」という願いを込められ、命名された「蛍」の名。引き分け以下ならW杯出場も危ぶまれた瀬戸際で、暗闇にいた日本を照らしたのは山口だった。【益子浩一】

◆日本代表のバースデー弾

 ▽渡辺正(立大) 59年1月11日に23歳になったFW渡辺は、敵地での親善試合シンガポール戦で先発。0-3と3点ビハインドの前半41分にゴールを決めたが、2-3で敗戦。

 ▽宮本恒靖(G大阪) 04年2月7日に27歳になったDF宮本は、カシマでの親善試合マレーシア戦で先発。1-0の前半37分にMF小笠原のクロスを頭でゴール。代表初得点だった。試合は日本が4-0で快勝。