リオデジャネイロ五輪サッカー日本代表の手倉森監督が、年の瀬に本大会を振り返った。48年ぶりのメダルを目指したが、1勝1分け1敗のB組3位で1次リーグ敗退。日本選手団の先陣を切った8月4日の初戦ナイジェリア戦に4-5で敗れ、黒星発進したことが、予選突破を逃す大きな要因になった。【取材=木下淳】

 -ナイジェリアが、チャーター機の手配トラブルなどで会場のマナウスに入って来ませんでした

 手倉森 過去に不戦勝の歴史があったか分からないけど、IOCとFIFAが絡んだ大会で、会場に着けないとなれば不祥事。さすがに試合には来るだろうなと思っていた。惑わされないように、と思いつつ、気持ちはブラつかされたね。「リオで歴史を変えてやろう!」と力んで、万全の状況で初戦を迎えたつもりなのに、背後から「膝カックン」されたような思いになったのは確か。

 -結局、試合の6時間半前に合宿地の米アトランタからマナウス入りしました

 手倉森 あのトラブルのせいで、勝っても「トラブルがあったから」と言われただろうし、負ければ「アドバンテージがあっても勝てねえのかよ」となる。難しい状況だった。選手には「目指してきた舞台だ。高いレベルの気持ちで入れるように、トラブルに水を差されないように、しっかりした気持ちで入ろう」と伝えた。でも、人間だから。選手本人すら気づかない部分で、実は気持ちが緩んでいることもある。

 -4-5という激しい打ち合いの末に敗れました

 手倉森 もしナイジェリアが1週間前にマナウスに到着していて、万全の状態だったら。もっとコテンパンにやられていたかもしれないね、いま思うと。彼らはアトランタで2カ月弱、合宿していた。96年の五輪で金メダルを取った地で。準備期間は日本より長かったので、当日移動になったことでトントンになっただけ、とも考えられる。いずれにしても、毎日、情報は入っていた。今日も飛べなかった、明日になった、また次の日みたいだ、って。初戦の4日前には公式ホテルに入らないといけない決まりだから、おそらく制裁金を払ったと思う。それでも、縁起も気候もいいアトランタに、わざと残ったんじゃないか、という気さえしている。「体調面でアドバンテージがある」といった周りの風潮が、あの結果をもたらしたというか、わなを仕掛けられた気分だった。

 -手堅いサッカーを追求してきた手倉森ジャパンが、ナイジェリア戦では日本の五輪史上最多となる4得点。そして48年ぶりのワーストタイ5失点でした。4カ月たって、どう振り返りますか

 手倉森 4大会連続でU-20(20歳以下)W杯の出場を逃すなど「勝てない世代」だった。世界を知らない選手と監督が組んで、世界の初戦から事がうまく進みすぎたら「できすぎ」だろう。アジアで優勝して、無敗で五輪まで行けた中で、最初に土をつけさせられる運命だったのかな、と思っている。俺は初戦から勝ち続けて(アジア予選の9連勝と合わせた)「15連勝で金メダルだ」と言ってきたけど、ナイジェリアと引き分けることすらできなかった。これが現実。いい夢を見させてもらった。世界の中で日本が15連勝なんて。「そんな夢を語るのやめろ、手倉森!」って思わされた敗戦だった。

 -オーバーエージ(OA)枠のFW興梠慎三、DF塩谷司、DF藤春広輝にも国際経験がないことが、当時は「敗因」と指摘されました。

 手倉森 男子の五輪は23歳以下。人生で1度、出られるかどうかの制限がある中で最近、2大会連続で出場したのはDF吉田麻也ぐらい。リオ(世代)は国際経験の乏しい選手たちで戦い、「大会の雰囲気をイメージさせること」しかできなかった。呼べなかった事情はあったが、経験者がいれば違ったのは間違いない。ナイジェリア戦では開始12分で2-2になった。疲れた。その後、ようやく2-2で落ち着いたのに前半の最後に失点してしまった。後半の2失点なんか、相手へのプレゼントと言うしかないプアなミスだった。あれが経験のなさ。最後はMF大島と藤春がパス交換したの、かっさらわれて、GK櫛引のクリアを蹴り込まれた。今まで起きなかったことが五輪では起きた。まあ、最初に点を与えた時点で経験不足を露呈していたけど、これは選手の責任ではなく、日本サッカー界の責任だと思っている。

 -後半に3点差をつけられた時は、さすがにポジティブな監督も勝利は厳しいと思わされたのか

 手倉森 どんな試合でも諦めないけど、実は2-5になった時、秋葉(コーチ)が「もう切り替えて、メンバー下げましょう」と言ってきた。結果的に良かった。俺が「もう1点だ」って意地になってたら(2-2)で引き分けた第2戦コロンビア戦も、やられていたと思う。秋葉が(選手時代に)アトランタ五輪を経験していたから。大きかった。スタッフの「柔軟性と割り切り」に助けられた。その上、投入した選手(浅野、鈴木)が点を取ったから自信がついたし、勢いがついた。第2戦でコロンビアと引き分け、第3戦ではスウェーデンに1-0で勝った。ただ、ナイジェリアに負けたから1次リーグ敗退なのか、コロンビアと引き分けに終わったから敗退なのか。もしナイジェリアに勝っていれば、いい気になって2、3戦目で負けていた可能性もある。ともかく「リバウンド・メンタリティー」を発揮しないといけないことだけは、確かだった。短い時間での修正力は見せられたと思う。本当は決勝まで6試合やりたかったけど、中身の濃い3試合だったと思っている。(明日につづく)