ロスタイム3分を含めた終盤の約10分間、スタジアムはブーイングに包まれた。2-2の引き分けで決勝トーナメント進出が決まる状況でイタリアは後方でパスを回し、日本も無理に追わなかった。非難する観客の声。ただ、これは内山監督がチームに求め続けた成長を物語るシーンでもあった。試合後、指揮官は終盤の展開に「ものすごく満足しています」とためらいなく笑った。

 「いかにしたたかにやるか。賢さが日本に最も足りない。世界を勝ち抜くためにそこを一番求めた」。

 2点差を追いついた瞬間、内山監督は計算した。残り20分を切り、ピッチに向かって叫ぶ。「勝ちにいかなくていい」。選手は追加点を求めるのをやめた。MF遠藤は「楽しくはなかったですけど」と素直に話し、続けた。「いろんなことを考えたけど、結果がすべて。仕掛けてたとえ勝っていたとしても、それよりいい経験ができたと思う」。

 遠藤だけではない。2得点した堂安も、切り込めるチャンスを何度も我慢して後方へのパスに切り替えた。引き分けでOK。冷静だった。内山監督は満足げに語った。「『勝てばいいんでしょ』という日本の発想を、ずっと断ち切りたかった」。チーム発足から約2年半。指揮官の教えは選手にしっかり浸透していた。

 第1目標の1次リーグ突破を達成。「新しいものを見つけ、戦う場所を彼らが奪い取った」と指揮官は選手を誇った。若武者たちは1つでも上へ駆け上がる。【岡崎悠利】