<女子W杯:日本2-2(PK3-1)米国>◇決勝◇17日◇ドイツ・フランクフルト

 沢の「右腕」が、W杯決勝という大舞台でその力を爆発させた。MF宮間あや(26=岡山湯郷)が後半36分に同点ゴールを挙げると、延長後半12分には左CKで沢の同点弾をアシスト。1得点、1アシストで全得点に絡み、PK戦でも大事な1本目を難なく決めた。沢に憧れ、世界を目指した「ガキ大将」が、目標の先輩とともに世界の頂点に立った。激戦を制してきたなでしこジャパンの集大成を、その小さな体で存分に体現した。

 世界一を決めるピッチで、宮間は臆することなく戦った。「ここで勝たなきゃ、いつ勝つんだと」。世界ランク1位の最強の相手だろうと関係なかった。

 後半、残り約10分。宮間は絶好機を逃さない。丸山と相手DFが交錯しゴール前にボールが転がると、そこに飛び込んだ。相手クリアを体に当て、左足を目いっぱい伸ばし、ゴール左隅に押し込んだ。

 そして再び1点を追う延長後半終了間際。目標の先輩と「一体」となった。左CK。ゴール前の沢と目が合った。「いつも蹴る前には目を合わせているので」。今度は右足で蹴ったボールは、沢の右足に吸い込まれるようにカーブを描き、ネットに突き刺さった。締めはPK。1本目の大役を任され、フッと一息つき、右足で相手GKの動きとは逆の右方向に突き刺した。仲間のいる後方に振り返ると、右腕をクルクル回して拳を握り、男勝りのガッツポーズを披露した。

 日本のシュート数は、米国の27本の約半分の14本。前半は相手の12本に対してわずか5本だった。押され続け、点を取られても、決してあきらめずに食い下がった。男女合わせて、W杯決勝という舞台で2度も追いついたのは今回の日本が史上初。1点目の宮間の同点ゴールは、右足では届かなかったボールの位置だった。両足で決定的なパス、シュートを打てる宮間が中心となり、値千金の同点弾を2度も演出した。

 九十九里浜の海水浴場がある千葉・大網白里町出身。父文夫さん(57)が監督を務める「フッチボールsurf」でサッカーを始めた。白里小4年のある日、当時読売ベレーザに所属していた沢がサッカー教室で来校した。優しい指導、懐の大きいスターに一目ぼれした。中学進学と同時にベレーザの下部組織メニーナに入団。片道3時間半もかけて通い、先輩の背中を追い掛けた。世界最高峰の舞台で見せた大先輩との共演。3月の震災では、実家に津波が来た。大きな被害はなかったが、両親が経営する海の家「surf」は休業中。家族に勇気を送る活躍になった。

 チームは1次リーグでイングランドに敗れたが、1度も勝てなかったドイツを延長戦の末に破り、準決勝でスウェーデンに逆転勝利。そして米国も苦しみながら破った。幾度となく逆境で底力を発揮してきた、なでしこジャパンが、伝説を完成させた。「120分間やって、ギリギリ追いついた。優勝はうれしいけど、ドイツにしても米国にしても、90分で片を付けられるようなチームにならないと」。頂点に立った宮間は、さらに上を向いていた。