<女子W杯:日本2-2(PK3-1)米国>◇決勝◇17日◇ドイツ・フランクフルト

 佐々木則夫監督(53)が、日本を世界一にした。PK戦前には全員を笑わせてリラックスさせ、試合中は選手の意見を聞き入れる柔軟な采配で、世界ランク1位・米国との死闘を制した。なでしこイレブンからは「ノリちゃん」と慕われ、絶対的な信頼を寄せられる名将が、日本サッカー界に新たな歴史を築いた。

 緊張感高まるPK戦直前の輪で、笑いが起きた。イレブンは全員、「ノリちゃん」からのお約束の一発ギャグを期待していた。「PK戦はもうけもんだよ。うーん、(ギャグは)出ない」と恥ずかしそうに笑った。それはそれで面白い。120分の死闘を終えたイレブンから笑いが起きた。頭をリセットできたなでしこは、PK戦で米国を圧倒し、世界一になった。

 佐々木監督

 いや、本当は一発ギャグを言おうと思ったんですけど、思いつかなかったから笑顔にしたんです。だってPK戦に持ち込んだなんて、もうけもんだよ。向こうは勝ったと思っていたのがPKになったんだから。だからキッカーも(GKの)海堀も「あっ、そうだな」という気持ちになってくれればいいと思っての笑顔です。そういう気持ちを僕は表現したかったんです。

 佐々木監督は、試合直前のロッカールームで、一発ギャグを言って、選手をリラックスさせて送り出す。MF沢から「(そのギャグは)もう古いよ」と突っ込まれ、大きな笑いが起きることもある。今回も5つ程度のネタを用意してドイツに渡ったが、快進撃でネタが底をついていた。それもギャグのネタにする、同監督ならではの感覚が、イレブンを楽な気持ちにさせたことは間違いない。

 柔軟な対応が、勝利を呼んだ。延長前半は川澄を最前線に出し、丸山を2列目の左に配置した。しかし選手の意見を聞き入れ、同後半には2人のポジションを入れ替えた。

 佐々木監督

 選手も中でやって状況を感じながら戦い方を変えたりする。それをベンチでグダグダ言っても変化しません。今日、丸山と川澄をちょっとポジションを変えて変化しようと思ったところ、失点しました。川澄から「延長後半は元に戻した方がいいんじゃないですか」って言われて「その通りだね」って言いました。選手は自分たちで冷静に考えて、厳しい戦いをやっています。

 自分のミスを潔く認め、選手のやりやすい環境を整える。決勝戦後は午前4時まで選手たちと祝杯を挙げ、労をねぎらった。佐々木監督のユーモアと柔軟な姿勢は、世界一監督にふさわしいものだった。