来年のロンドン五輪出場を目指し、9月1日から中国で最終予選を戦うなでしこジャパンが22日、岡山県美作(みまさか)市の湯郷温泉で6日間の直前合宿をスタートさせた。人口わずか3万2000人の温泉街に“生なでしこ”をひと目見ようと約3500人ものファンが集結。あまりの熱気にサポーターの1人が倒れ、救急車も出動した。同温泉街に約20軒ある旅館はほぼ満員で、同市では合宿期間中の経済効果を約3億円と見込み、市職員が総出で受け入れに大わらわだ。

 昔ながらの温泉街が、なでしこフィーバーに沸いた。市内の主要地からグラウンドに無料送迎する5台の巡回バスは休む間もなく、満員のファンを乗せてピストン運行した。メーンスタンドは早々に超満員に膨れ上がり、約3500人が約1時間の練習に熱視線を向けた。80代女性が熱中症で緊急搬送されるアクシデントもあったほど。

 午前4時半に一番乗りを果たした倉敷市の藤野澄江さん(35=看護師)はメーンスタンド中央に陣取り「なでしこジャパンが優勝してファンになりました。いい場所が取れると思って早起きしたけど、選手を間近で見ることができてよかった」と興奮気味に話した。

 熱狂的な歓迎に佐々木則夫監督(53)も「熱く迎えてくれて、練習に集中しやすい状況を作ってくださる」と最大限に感謝。「湯郷温泉女将の会」の佐々木裕子会長も「こちらで働き始めて以来、こんなに人が集まったのを見たのは初めてです」と目を丸くした。

 男子代表では作戦上、練習を非公開とすることがある上、練習会場そのものを告知しないことが多いが、MF沢を筆頭に「女子サッカーを普及させたい」という思いが強く、常に地元自治体と協力し練習も公開している。

 同市で、なでしこジャパンがキャンプを行うのは北京五輪直前の08年8月以来。当時は10日間で計7000人しか来なかった。しかも、このうち1日は約4000人が来たファン感謝デーだったため、純粋に練習見学に訪れたのは1日平均350人足らず。この日は報道陣だけで150人もが押し寄せ、W杯優勝効果はこれを10倍に引き上げた。

 とどまるところを知らないなでしこ人気に同市は今月8日、専門の受け入れ組織「なでしこジャパンキャンプ支援室」を設置。市職員5人が専属で業務に当たってきた。さらに合宿期間中は約650人の市職員のうち、毎日約60人が現場などで誘導や受け付け業務に当たるという。

 昨年度、税収が30億2200万円だった同市は、この6日間だけで約3億円の経済効果を見込んでいる。世界一のなでしこパワーが小さな温泉街に大きな力を注ぎ込んだ。【土谷美樹】