<キリンチャレンジ杯:日本4-1ブラジル>◇5日◇ホームズ

 なでしこジャパン(FIFAランク3位)のFW永里優季(24=ポツダム)が、後半13分に決勝ヘッドを決めた。ブラジル(同4位)を圧倒し、キリンチャレンジ杯優勝。優勝には最低でも4点以上が必要な厳しい中での決勝点は、スピードと連係で大きな成長を見せた。ボランチの位置まで下がり、前線の起点にもなり、永里を軸に戦う“永里システム”を構想する佐々木監督のイメージに大きく近づいた。また、MF宮間あや(27=岡山湯郷)のボランチ起用など、ロンドン五輪金メダルへ、大きく視界が開けてきた。

 一瞬のスピードで相手を振り切った完璧なゴールだった。1-1の後半13分、MF宮間とのアイコンタクトで狙いを定めた。右CKにゴール前中央からニアサイドに走った。クリアしようとダッシュした相手DFの前、頭ひとつ分だけわずかに速く飛び込み、そのまま額を軽く合わせた。前半ロスタイムに追いつかれた流れを変えた。

 永里

 (宮間)あやからいいボールが来て合わせるだけだった。久しぶりの日本での試合で観客の皆さんの変化はすごかった。

 永里の笑みがはじけた。昨夏のW杯でもエースに指名されたが、準決勝以降はスタメンを外された。しかし、実はこの屈辱や悔しさが永里を変えた。

 得点を追い求めるあまり、前線からの守備意識が欠如していたことを佐々木監督は見抜いていた。W杯以降、監督、仲間の姿を見て考え方が変化した。「あの時の自分とは違った自分がいる。あのままではいけないと感じた」。スピードと運動量を兼ね備えた“ニュー永里計画”を実行。8カ月を経て生まれ変わった姿を日本で披露した。

 5メートル、10メートルのスプリント能力を上げることを最重要課題に挙げた。まずは体重を約5キロ減らした。並行して屈強な相手に負けないフィジカルトレーニングも積み重ねた。チームの練習後、氷点下で雪の降り積もる足場の中、1人で黙々と繰り返したダッシュの連続が実を結んだ。「今日のゴールはその成果の1つかもしれないですね」。

 同時に、組織プレーの中心になれるだけの信頼を、指揮官から勝ち取った。FWの位置からボランチの位置にまで下がって起点となり、時間を稼ぐことで、2列目やサイドバックがFWの位置まで攻め上がる。それが、佐々木監督の理想型だった。永里は良く戻り、ボールを収め、その連動制の根底を支えた。永里を攻撃の中心に据えることを指揮官に決断させた。

 「この仕事は自分しかできない。ハーフタイムには選手で修正点を明確にしていた。攻撃が縦に速くなりすぎていた。後半はあやがボランチに入って関係がつくりやすかった」。しっかりとしたエースの自覚が芽生えてきた。

 永里を軸にすることで、宮間の色がクッキリと出てきた。沢不在のボランチだが、宮間のボランチも機能した。宮間は「ワイドが使えていなかったが、後半はスムーズにいった」と言った通り、宮間は1得点1アシストを含む3得点に絡んだ。五輪へ向けたチームの全体像は形になりつつある。

 ブラジルが時差ぼけなどの影響もあり、動きは実力とは程遠かった。それでも、この日の連動したパスサッカーは、W杯優勝の進化形と言える。佐々木監督は「アルガルベ、キリンチャレンジ杯とうまくつなげた良いキャンプとなった。我々のスタイルは磨かれている」。沢不在の不安材料より、今のなでしこには収穫の方がたくさんある。【鎌田直秀】