<国際親善試合:日本1-0フランス>◇12日◇サンドニ

 香川が決めた!

 フランスに勝った!

 日本代表が98年W杯王者をアウェーで撃破する歴史的な大金星を挙げた。FIFAランク23位の日本は前半から同13位のフランスの猛攻に守勢が続いたが、0-0で迎えた後半43分、速攻からFW香川真司(23=マンチェスターU)が、DF長友佑都(26=インテルミラノ)の右クロスを、右足でゴールにねじ込み、ホーム13戦不敗だった強国から、6度目の対戦で初白星を挙げた。チームは翌日13日、ブラジル戦(16日)に向けてポーランドへ移動した。

 待ちこがれたゴールだった。泥にまみれたゴールだった。香川がゴール前へ飛び込んだ。後半43分のDF長友の右クロス。倒れ込みながら残した右足で負の歴史に終止符を打った。どこに当たったのか記憶にはない。歓喜がすべてを忘れさせた。絵に描いたようなカウンター。先頭に立って走った香川が、フランスを真っ二つに切り裂いた。

 “1トップ”香川に与えられた時間はわずか残り4分。FWハーフナーの交代に伴い最前線に上がった。そのわずか1分後に生まれた勝利に導くゴール。相手CKのこぼれ球を拾ったDF今野から始まった逆襲をものにした。「僕は今日は結果を残したかったから、なるべくゴール前で待っていようと思っていた。特に(長友)佑都が上がったとき、ゴール前でいいポジショニングとろうと思っていた。素晴らしいボールをくれた」。試合後の歓喜の抱擁。当然とばかりに、泥まみれのユニホームを気にも留めない。

 「なかなかチームでは難しい状況の中、自信を得たかった。見直す部分はあるけど、ゴールで自信をつけることは自分のやってきたスタイルだから」

 日本の10番は自分を見失いかけていた。マンチェスターUでトップ下の定位置を失い、自信が揺らいでいた。日本代表では左サイドでの起用が続き、さらに5戦連続で不発が続いていた。重圧と焦り。負の連鎖はさらに香川を縛り付けた。

 最大のきっかけは司令塔を担うMF本田の不在。右ふくらはぎ痛で欠場したことを受け、後半17分にトップ下に入った。ぬかるんだピッチで踏ん張れず、何度も滑った。しかし転んでは起き上がる。「違う選手が入ったときに違う色を出せるようにチームをつくっていく必要がある」。状況に合わせたゲームメーク。香川自身もゴールに近づけば近づくほど躍動。すべて吹き飛ばすゴールへとつなげた。

 もがき苦しんでいた。腰痛で欠場した9月のW杯アジア最終予選イラク戦前には、周囲にこんな本音を漏らしていた。「サイドでは結果を残せないかもしれない」。Jリーグ時代の同僚にも電話で相談した。欧州のビッグクラブに入り、日本の10番を背負う重圧は、日本人が経験したことのない未知の世界だった。「いろんな葛藤があるのは事実。事実だからこそ、僕は結果を求めていた」。

 過去5戦全敗(1PK負けを含む)だった元W杯王者をアウェーで撃破する歴史的ゴール。それでも香川は試合後、まだ満足していなかった。「次の試合でまた結果を残さないと。すぐにマンチェスターに帰る。1試合だけでは今の自分には足りない。ブラジルに勝ったらまた自信につながる。それを求めている」。立ちはだかる王国にたたきつけた挑戦状。強敵からの勝利は、何よりも癖になる。【益子浩一、栗田成芳】