チーム3点目は、燃え尽き症候群からの「復活ののろし」だった。2-1の後半42分。浦和FW興梠慎三(30)はゴール正面に走り込み、右からのクロスを頭でたたき込んだ。

 「いいボールを入れてくれたので、簡単なゴールだったけど、自分にとっては重みのある1点だった」

 ハットトリックよりも、勝敗を決する1点を取りたい。常々そう話してきた男が、決勝点ではないチーム3点目を「重みがある」と言う。それには訳がある。興梠は振り返る。

 「リオ五輪では、サッカー人生で一番自分を出し切った。正直、燃え尽きた。なったことないから分からないけど、燃え尽き症候群かなと思う」

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 興梠は8月のリオデジャネイロ五輪にオーバーエージ枠で出場した。

 一度は「浦和で優勝したいから」と固辞しながらも、敬愛する手倉森監督の熱心な誘いで、シーズン中にクラブを離れる決断をした。「やるからには命懸けで」と言って代表に合流。若いチームを引っ張り、世界を相手に奮戦した。

 1次リーグにはナイジェリア、コロンビア、スウェーデンと大陸王者級がそろった。日本は敗退したが、興梠は屈強なDFの圧力を、柔軟さ、しなやかさで巧みにいなし、前線の橋頭堡(ほ)として機能した。

 しかし、その反動は大きかった。ただでさえ地球の反対側でのプレーは、移動距離や時差的にも負担になる。加えて「命懸け」と言うほどの奮戦で、心身をすりへらし切った。

 浦和に戻ってきた興梠は、すぐに自分の「変化」に気づいた。「気持ちがうまく高まらない。筋肉が言うことを聞いてくれない」。

 このままでは、チームのために働けない。鹿島で10冠を経験した男は、指揮を執る恩師ペトロビッチ監督に、今の自分の状態を伝える必要性を感じた。今は気持ちを高めることも難しい。率直に、そう話した。

 「自分自身でコンディションが悪いのはわかっていた。試合に出て迷惑かけるのもいけない。ちゃんと伝えるのがチームのため。スタメンじゃないことに、特にもやもやはなかった」

 人生初めての経験。戸惑いもあったが、それでも「ゆっくりやるしかない。それが自分らしい」と腹をくくった。

 練習からして、紅白戦形式で控え組に入ることも多くなったが、黙々とプレーを続けた。プレーの合間などに、努めて他の選手よりも多く身体を動かしながら、時を待った。

 再び心と身体に種火が灯る、その時を。

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 「今週になって、すごくいい練習ができるようになった。きっかけとかはなくて、自然に。時間が必要だったかなと思う」

 事前に手応えはあった。そして結果が出たことで、手応えに間違いはなかったと確信できた。試練を乗り切った喜びが、興梠の気持ちをさらに高めた。

 「1点を取って、また先発でやりたいという気持ちが奮い立ってきた。五輪から帰ってきてからは、チームの優勝争いのことも考えられないくらいだったけど、そこを狙う気持ちがよみがえった。もう1度レギュラー争いをすることも、自分にはプラス。チームもいつもと違う、上を追う形で終盤を迎える。そうやって1人1人が危機感を持つのは大事。今年はすべてがいい方向に向かっている」

 川崎Fが敗れたタイミングで勝ったことで、年間勝ち点の差は2に縮まった。広島、G大阪と宿敵との対戦が続く直前という意味でも、この勝利は大きい。

 そして、エース復活のきっかけとなるゴールが生まれたことも、チームにとっては大きい。興梠はリーグ終盤を前に「僕もこれから絶好調になると思いますよ」と不敵に笑った。【塩畑大輔】