Jリーグが新しい時代に突入した。17年から10年2100億円超という巨額の放送権契約を結び、財政的な基盤を整えた。ここから昨年12月のクラブW杯決勝であのRマドリードを追い詰めた鹿島のように、Jリーグそのものも世界に打って出る。14年に就任し2期4年目。圧倒的なスピード感とスマートかつ大胆なリーダーシップで、停滞していたJリーグを大改革する村井チェアマンの元日インタビューを、たっぷりとお届けする。

 -アジア王者を目指して戦うJリーグ勢ですが、リーグのレベル、運営ではアジア最高という評価を得ていた時代もありました。中国の一気の台頭など、勢力図が変わりつつある今、Jリーグはアジアのどのような位置にいて、どこを目指しているとお考えですか

 現在はヨーロッパ、南米が主軸ですが、ヨーロッパ、南米、アジアで、明確なフットボール3極体制を作ることが非常に重要だと思います。欧州と南米はずっとトヨタ杯で世界一をかけて争ってきました。我々は日本で長い間、それを見てきたわけです。ただ、先日の鹿島の戦いを見ると、南米チャンピオンにも力負けしなかった。アジアもグローバルな視点でフットボールを見た時、大きな3軸のうちの1つとして打ち立てる時期にきていると思います。

 世界的には、どうしても「爆買い」といわれる、中国クラブによる巨額な有名選手獲得が話題になりがちですが、それだけではありません。クラブ経営、選手の強化、競技成績、すべての面でアジアの範となり、日本がアジアのハブ(拠点)になる。これを本気になって目指さなければなりません。

 今回、(英・DAZN=ダ・ゾーン=との巨額の放送権料契約により)ある程度の財政的基盤を強化することができました。世界で、戦うことの入り口に立つことはできたと思っています。ここから、日本がアジアをけん引し世界の第3極になれればいいと思います。

 まず、17年シーズンは、サマーブレーク(リーグ中断期間)にJリーグ・インターナショナルマッチウイーク(仮称)を設け、海外のビッグクラブを呼びプレシーズンマッチを開催します。すでに幾つかのクラブから参加の打診が来ています。Jリーグ発で、アジアのサッカーを世界に披露していく機会を創出していくことが目的です。

 -DAZNと締結した17年から10年で2100億超という巨額の放送権料によって、本当に、Jリーグは大きく変わるのでしょうか

 大きく変わることができるかで、一番重要なのはクラブの経営者の投資マインドが変わるかどうか、そこに懸かっていると思っています。分かりやすくお小遣いに例えますが、お小遣いを3000円もらい、毎年その3000円でやりくりするだけなら、何も変わりません。

 じゃあ、この機会に3000円のうち、2000円を元手に商売をしようと。それでグッズが売れた、飲食や入場者数が増えたなど、将来に投資をし、収入規模を大きくしていく。投資型の経営マインドがリーグ全般的に育てば、Jリーグの次の10年、20年を変えていくような大きな変化になると思っています。もちろん経営規模に応じまだその段階にはないクラブもあると思いますが。

 積極的な投資マインドを持ってクラブを成長させていく経営者が1人、2人と出てくれることを期待しています。クラブW杯の鹿島の戦いを見ていても、日本人は試合の中で相手に適応していく能力が高いと感じました。日本人は最初、新しい変化が起こると身構えて萎縮してしまうところがある。ただ、その間にじっと見て、適応していく力がずばぬけて高いんじゃないでしょうか。私はそう思います。だから、あまり心配していません。

 -Jリーグそのもの、組織も戦っていくのでしょうか

 サッカーは11人しかピッチに立てない、定員制の厳しいスポーツです。本来、スポーツとはそういうものです。選手も、自分より能力の優れた人が出てくれば、入れ替わりを余儀なくされます。Jリーグの職員にも同じことを言っています。どんどん開かれた市場から優秀な人が出てくるぞと。私もそうです。経営に指定席はありません。常にその市場の競争にさらされる厳しい側面があります。プロの興行であるから故に、我々Jリーグ自身がその思いを持ちプロフェッショナルでなければいけない。そう思っています。

 -昨年末、Jリーグの現状と課題を細かくまとめた「PUBリポート」を発行されました。決して都合の良くないデータも含まれていました

 Jリーグにとって都合のいいことばかり総括するのはやめようという思いです。サッカーはみんなのもの。速報値も多分に含まれていますが、まずはみんながいろいろ議論できるようにファクト(事実)、素材を提供する。それによってJリーグが批判されたり、問題提起されたりすることも、いいことに変えていくべきだということが、Jリーグの基本的な考え方です。【聞き手・八反誠】