<J2:広島4-1愛媛>◇第37節◇23日◇広島ビ

 日本代表FW佐藤寿人(26)が先制ゴールを奪い、広島を1年でのJ1復帰へ導いた。ホーム愛媛戦で4-1の勝利に貢献。前半25分、MF青山からパスを受け左足で決めた。昨季J2降格が決定した時に「1年でJ1へ戻ってくる」と宣言し、広島残留を決断した。今季はJ2と日本代表を両立しながら、J2で21得点と得点ランクトップを独走。男の約束を果たし「約束の場所」に戻ってくる。

 ベンチを飛び出した佐藤寿が、真っ先にペトロビッチ監督に抱きついた。お役御免で退いたベンチ内で、J1復帰を告げるホイッスルを、目頭を押さえながら待った。今季最多1万9349人のサポーターに「ようやくJ1復帰を決めました。ありがとうございました!」と絶叫した。

 J1復帰への最初の扉をこじ開けた。前半25分、エリア付近で青山からパスを受けると、一瞬で体を反転。左足で先制ゴールをたたき込んだ。33試合に出場し、21得点。J2得点ランクを独走する1発だ。得点した17戦は14勝3分け。「不敗神話」が仲間のゴールラッシュを呼び込んだ。

 昨年12月8日。ホームで京都との入れ替え戦に敗れ、怒声交じりのホームサポーター席に涙ながらに訴えた。「1年でJ1に戻ろう!」。同時に残留を宣言した。J1クラブに移籍しようと思えばできた。海外挑戦に出る手もあった。息子2人を、玲央人(れおと=4)と里吏人(りりと=1)と「海外で通じるように」名付けた。それでも、最大の目標=W杯出場へ、不利は承知の上で、あえてJ2に残る道を選んだ。

 あきれるほど、人がいい。新加入選手の歓迎会を率先して催し、自分の家に招待して、溶け込みやすいように配慮する。時間が許す限り、メディアにはきっちり対応する。チーム広報によれば「寿人の会見中止は06年W杯メンバー落選の1度だけ」という。

 6月、約9カ月ぶりに念願の日本代表復帰を果たした。疲労はたまるが、泣き言は言わない。代表招集で欠場した第21節水戸戦、第34節岐阜戦直後の試合は、いずれもゴールを決めた。自分の選択の正しさを証明するために、今季を駆け抜けてきた。「勝って当たり前という周囲の目の中で、勝つことの難しさを感じた。楽な試合はなかった」。有言実行。J2という修羅場でたくましさを増したエースが、ついに晴れ舞台に帰ってくる。【佐藤貴洋】