【仁川(韓国)27日】熱戦が続くアジア大会で、前代未聞の不祥事が起きた。競泳男子の冨田尚弥(25=チームアリーナ)が競泳会場で韓国メディアのカメラを盗んだもの。26日夜から27日未明まで地元警察の事情聴取を受け、本人も容疑を認めている。日本オリンピック委員会(JOC)は、これを受けて早朝に選手団からの追放を発表した。週明けにも出る聴取結果を待つために、冨田はこの日帰国したチームと離れて、選手村で謹慎している。

 日本選手の頑張りに水を差す事件が起きた。JOCによると冨田は25日昼ごろにチームの応援で訪れていた文鶴水泳場のプールサイド記者席から記者が離れた時にカメラから望遠レンズを外し、本体を持っていた袋に入れて持ち去った。水泳場の監視カメラを分析した結果、冨田が浮上。26日夜に本人が警察に呼ばれ、聴取を受けた。本人は「カメラを見た瞬間、欲しくなった」と供述している。

 仁川南部警察署によると盗まれたカメラは800万ウォン(約83万円)相当で、選手村で見つかった。冨田は午前1時過ぎに選手村に戻り、JOC関係者らに謝罪した。前回の10年広州アジア大会の男子200メートル平泳ぎを制した冨田は今大会、24日の100メートル平泳ぎで4位入賞、26日の50メートル平泳ぎで予選落ちした。

 過去にも例のない不祥事に、選手団は未明から揺れた。冨田が容疑を認めたために選手団からの追放を決定。今大会の記録は抹消、入賞も取り消しとなる。この日に予定されていた前半戦の総括会見は急きょ謝罪会見に変更。記者30人程度を予定していた会見場は200人の部屋に。青木剛選手団長は「大変に申し訳ない、心からおわび申し上げたい」と深々頭を下げた。

 会見では日本選手団や日本水連の倫理教育についても問われた。JOCや水連は選手行動規範を設けているが、青木団長は「規範以前の問題」と話し「そこからやらなくちゃいけないのか、というところはある」と苦渋の表情をみせた。

 日本水連副会長でもある青木団長は「(選手を)競技に集中させて、日本にしっかりと帰国させる。その後、考えたい」と自らの責任に言及した。また、カメラの所有者が韓国の通信社、聯合ニュースであることが分かり、同団長が同社に謝罪した。

 競泳チームは帰国したが、冨田は週明けに警察から聴取の結果が出るまでは帰国できない状態だ。選手団からは追放になっているが「居場所を確定する必要がある」(青木選手団長)ために、選手村で謹慎している。本人は深く反省しているというが、窃盗という前代未聞の事件を起こした影響は大きい。

 ◆過去の不祥事

 84年ロサンゼルス五輪で、水泳代表選手による大麻事件があった。一部の選手が大会中などに大麻を使用したことが明らかになり、五輪代表を含む男子5選手が事実上の永久追放(88年に処分解除)となった。当時の日本水連会長は引責辞任。五輪代表監督、コーチらも辞任した。メダルどころか、入賞も女子の2つだけという成績で、日本競泳界がもっとも苦しんだ時期だった。

 その影響もあってか、日本水連の選手行動規範、倫理規定は厳しい。茶髪やピアス、過度なネイルアートは禁止。ミーティングから代表選手としての行動や考え方を徹底する。今大会前にも、表彰式での国旗や国歌に対する態度を指導していた。ロスの不祥事から30年、日本スポーツ界を代表する「チーム」に成長した競泳陣だが、日本スポーツ界の汚点として残る不祥事が起きてしまった。