<世界陸上>◇23日◇男子やり投げ決勝◇ベルリン五輪スタジアム

 【ベルリン=佐々木一郎】男子やり投げで村上幸史(29=スズキ)が銅メダルを獲得した。日本人として22年ぶりに進出した決勝で、2投目に82メートル97をマーク。3位につけて、そのまま逃げ切った。五輪、世界選手権を通じて、この種目でのメダル獲得は日本人初の快挙。投てき種目でのメダルは03年パリ大会男子ハンマー投げ3位の室伏広治以来3大会ぶり2人目。89メートル59をマークしたトルキルドセン(ノルウェー)が優勝した。

 村上の放った2投目は、大きな弧を描いて85メートルライン手前に突き刺さった。投げ終えた直後から絶叫していた村上の声が、最大のボリュームに達した。82メートル97。早々と3位につけた。疲労が蓄積される前の序盤に勝負をかけて、ライバルにプレッシャーをかけて逃げ切った。

 最終6投目を終えると、笑顔で歓声に手を振った。「入賞が目標だったので、まさかメダルを取れるとは思わず、どうやって喜んでいいか分からない」。世界の高いカベにはね返され続けたこの種目で、歴史に残る快挙を達成した。

 21日の予選を自己ベストの81メートル71を1メートル39も上回る83メートル10をマークして、全体の2位で通過した。日本人として87年ローマ大会6位入賞の溝口和洋以来22年ぶりの決勝に進出。「今は狙った試合で結果を出せる。世界を驚かせる」と宣言していた通り、決勝でも力を出し切った。05年は68メートル31、07年は77メートル63で予選落ちした、過去2度の世界選手権とは違う、自信が備わっていた。

 185センチ、90キロの恵まれた体格で、日本選手権は10連覇中。今季は背筋と腰回りの筋力強化に努めた結果「楽に投げられるようになった」。フォームに力みが消え、今季5年ぶりに出た80メートル台がコンスタント出るようになった。狙って記録を出せる現在の村上のスタイルが完成した。

 地肩の強さには定評がある。中学時代は野球部に所属。出身の愛媛県内では速球派として知られる存在だった。全国の強豪校からスカウトされるほどの実力選手。だがそんな時、体育のハンドボールの授業で陸上部の顧問に勧誘され、投てき種目を始めていった。

 陸上を始めてからも、野球の硬球を投げて、スピードガンで152キロを計測したこともあるという。プロ野球の横浜が先月に行ったイベントでは142キロに達し、横浜投手陣を驚かせた。男子ハンマー投げで五輪金メダリストの室伏でも、131キロまでしか出せなかった。村上の潜在能力の高さは折り紙付きだ。遠投は140メートルと、こちらはプロ野球選手も真っ青の記録を残す。

 国内では野球よりもはるかにマイナーな世界へと進んだが「今は陸上をやっていて幸せに思う」と話す。続けて「他の選手の調子の悪さにも救われた」と付け加えた。控えめな日本王者は、世界の強豪の仲間入りを果たしても、さらに上を見据えていた。