<日刊スポーツ豊平川マラソン>◇5日◇札幌・真駒内セキスイハイムスタジアム発着、豊平川河川敷コース◇男女ハーフマラソン各組ほか◇北海道日刊スポーツ新聞社ほか主催

 走る鉄人が「優勝」を辞退した。世界陸上男子マラソン代表の公務員ランナー川内優輝(26=埼玉県庁)が、自身初となる2日連続のハーフマラソンに特別招待選手として初出場。スタートまもなく独走状態に入り、男子高校生~39歳の部を1時間5分45秒の大会新で制したが、市民ランナーに1位の座を譲ってしまった。順位ではなく、内容を重視したトレーニング特化のレースに好感触を示した。

 川内の目が点になった。「男子ハーフマラソンは、川内選手のぶっちぎりの優勝でございます」。場内放送のアナウンスに、一般ランナーを含むファンから大きな拍手が湧き起こった。ゴールし、深々とコースにおじぎした直後だった。MCブースにいた大会関係者に「話が違いますねと言いました」。事前に着順には入れないでほしい旨を伝えたつもりが、手違いで優勝者になってしまった。

 世界を目指す鉄人ランナーとしてのプライドが許さなかった。「実業団とか強い大学生が相手だったらまだしも、日本代表選手が一般の中に入って賞をもらうというのは…」。本人の意向が確認され、タイムは公認も、記録はすぐに訂正された。ハーフ全体1位の座を返上しても表彰台には立ったが、役目はプレゼンター。1人1人と固い握手を交わし、記念撮影に応じながら、市民マラソンならではの交流を図った。

 2大会連続出場となる8月世界陸上(モスクワ)に向けた調整は順調だ。前日4日は埼玉・春日部大凧マラソンのハーフに出場。ものまねアスリート芸人の出現にはあきれたが、最後方から約5500人をごぼう抜きした。初体験となったこの日のハーフ連闘では、1キロ地点から後続を100メートル引き離す独走劇。あえて対照的なレースを選択した。自己ベストに3分27秒遅れたが、前日より気温10度も低い気象条件さえ克服し「GWの当初の目的は達成できた」と胸を張った。

 次戦12日の仙台国際ハーフから、本番前最後の7月28日釧路湿原マラソン(30キロ)まで超人的に8レースをこなす。「今回も合宿では午前10キロ、午後20キロ、翌朝20キロとか走っているので不安はなかった。前回の大邱(韓国、18位)は距離走が不足していたので、今後はこれぐらいがちょうどいいです」。ファンから求められた色紙に、座右の銘“現状打破”と記した男は、常に型破りなドラマを演出していく。【榎本優】