女子57キロ級でロンドン五輪金メダリストの松本薫(27=ベネシード)が4大会ぶり2度目の優勝を飾った。決勝で同五輪銀メダルのコリーナ・カプリイオリウ(ルーマニア)と対戦し、小外刈りで技ありを奪って優勢勝ちした。昨年大会では世界女王の重圧に負け、屈辱の2回戦敗退。柔道を続ける意味まで考えるほど悩んだ末、戻ってきた舞台で頂点に返り咲いた。

 「ロンドンオリンピックゴールドメダリスト カオリ・マツモト!!」

 1回戦から会場に大音量でアナウンスされる選手紹介に、松本は感じていた。

 「それよりも大事なことがあると気付けた。過去を引きずらず、戦いにいく自分を大事にする」

 昨年大会は、五輪王者がつける背中の黄金ゼッケンに縛られた。「周りの目を気にしすぎた」。胃薬を服用しながらの戦いは動きが硬く、2回戦の24秒、関節技で一本負け。過去にとらわれて、負けた。

 その自分と決別するための1年だった。昨年大会の参加賞の小さなメダルを、神棚にこけしが5体並ぶ独特な部屋の片隅に置いた。「すぐ人は同じことを繰り返す。あの時の悔しい思いを忘れないように」。大会の記念品には頓着しなかった。会場に置いて帰ることもあったが、このメダルは1年前の自分の象徴。見る度に思い返した。

 迎えた雪辱の舞台。右足を大きく前に出した低い姿勢、相手を見据える鋭い眼光…。ロンドン時をほうふつとさせる躍動感が戻っていた。くしくも4強以降はロンドン五輪と同じ相手。準決勝のパビアには準備してきた左の背負い投げで切り込んだ。どんどん前に出て、場外の指導を奪取。優勢勝ちで下した。

 続くカプリイオリウとの決勝では何かをつぶやきながら入場。開始1分25秒、タイミングよく放った小外刈りで技ありを奪った。ポイントのないままに反則勝ちした五輪とは違って、柔道で勝利。「今の方が強い。(3年前は)前のめりだけ。今日は左右に動けた。技術的、精神的にも強くなっている」。確信できた。

 言いきれるのは混迷を抜けたから。勝利を義務づけられる女王の重圧は、試合中に「なぜ勝ちたいのか。なぜ柔道をしているのか」と問うまでになっていた。それが7月の国際大会での3位決定戦、先に投げられると本能に火が付き、相手を追い回して抑え込んだ。「やっぱり勝ちたい。本能なんでしょうね」。義務感は消え去った。

 1年後、手にしたメダルは金色に変わった。ただ、目標は集大成と位置付ける16年リオデジャネイロでの2連覇。「まだ100%でない。人じゃない動きが出ていないので」。表現にもあのころが戻ってきた。これから1年後、再び黄金の輝きを手にしてみせる。【阿部健吾】