日本(世界ランク13位)が初戦で歴史的大金星を挙げた。ラストプレーでWTBカーン・ヘスケス(30=宗像サニックス)が逆転トライを挙げ、過去2度世界一の優勝候補・南アフリカ(同3位)に逆転勝ち。エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC=55)が卓越した手腕による「エディー革命」で、2分けを含む18戦未勝利でワースト記録更新中だった日本に91年ジンバブエ戦以来、24年ぶり通算2勝目をもたらせた。

 快挙を知らせるノーサイドの笛が響く。約3万人の観客で埋まった会場が熱狂に包まれる。ラグビー発祥の地、イングランドで日本が過去2度の優勝を誇る南アフリカを破った。ジョーンズHCは喜びを爆発させる選手たちの横で、ポケットに手を入れ、ほほ笑んだ。「日本が南アフリカを破るなんて、最後の結果が本当か疑った」。そして上機嫌の名将は「W杯の歴史で、最高のゲームでしょう」と少し声をうわずらせた。

 前半を10-12と互角の展開で折り返し、ハーフタイムに「勝とう」と声をかけた。キックで点を重ねながら、守備ではひたすら低くタックルして我慢。セットプレーと攻撃でミスがなければ、勝機はあると踏んだ。大野は「エディーさんが考えた戦略。勝つならこれしかないというシナリオだった」。してやったりのジョーンズHCも「普通はこうはいかない。正直、ここまでとは思わなかった」と思わず本音をこぼした。

 11年12月に就任し、日本ラグビーに革命をもたらした。強豪国に比べ、パワーやサイズで見劣りする。その分、俊敏性、フィットネス、スタミナを生かしたスタイルを模索した。掲げたのは「ジャパン・ウェイ」。連動した陣形でパスでボールを動かし、攻め続ける。自陣ゴール前であっても変わらない。サッカーボールやアメフットのボールを練習に取り入れるなど、独特のメニューで磨きをかけた。この日の後半29分、細かいパスワークで揺さぶり五郎丸がトライを挙げた場面は、まさに「ジャパン・ウェイ」の表れだった。

 そして最後の逆転トライは勝負への飽くなきこだわりとスタミナから生まれた。今年4月からは約140日に及ぶ宮崎合宿では、ほぼ毎朝6時から1日3回、多いときは4回も練習。ジョーンズHCは「日本人は苦しいときにハードワークできる」。かつて強豪オーストラリア代表の監督も経験。「彼ら(オーストラリア代表)なら2週間で音を上げる練習を5カ月続けてきた」。こういう地道な努力が勝利につながった。

 前日練習前、宿舎で指揮官が作成を指示した4分間の映像。落選したメンバーからのメッセージや、3年半にわたる練習風景があった。五郎丸は「みんな涙をこらえてみていた」。チームは1つになった。

 南アフリカに勝つ-。

 戦前、誰もが信じなかった結果を現実のものとしてしまった。「まだ終わっていない。(目標の)ベスト8にいかなければならない。それが私のコーチの仕事だ」。歴史的な大金星にも、名将は浮かれなかった。【岡崎悠利】

 ◆エディー・ジョーンズ 1960年1月30日、オーストラリア生まれ。オーストラリア代表HCとして03年W杯準優勝。南アフリカ代表アドバイザーとして07年W杯優勝。サントリーのHCとして11~12年シーズンに2冠。11年から日本代表HC。

<エディーHCの改革アラカルト>

 ◆有言実行 11年12月に就任時にトップ10入りを目標に挙げた。欧州遠征で敵地初勝利、昨年イタリアに勝利などで、世界ランクを最高9位まで引き上げた。

 ◆日本流 日本人の特徴の勤勉性に注目し、朝6時から1日3部練習を課した。ミーティングではテニスの錦織のようにつなげと訓示し、ファンには「鉄腕アトムのように日本を救う」と誓った。

 ◆異色トレ ドローンで練習を撮影し、動きの確認をした。眼帯してラインアウト、サッカーやアメリカンフットボールのボールで練習。プレー中にドラを鳴らすとダッシュなどでフィットネス強化した。

 ◆多彩スタッフ スクラム強化に元フランス代表ダルマゾ・コーチを呼び、走りのスピードアップにオランダの生体力学権威ボッシュ氏、タックル強化に格闘家高阪氏を招く。巨人原監督の講義も。

 ◆現地慣れ 米国戦前には昼食はホットドッグなどのアメリカンフードを出した。今大会前には現地のスタジアム、キャンプ地視察だけにチームで遠征した。