今月9日に国際柔道連盟(IJF)が20年東京五輪に向けた新ルールを発表したことを受け、同連盟理事の山下泰裕氏(59)が15日、都内の講道館で見解を示した。リオデジャネイロ五輪男子100キロ超級銀メダルの原沢久喜と王者テディ・リネール(フランス)との“組まない柔道”がルール改正の理由の1つにあったことを明かした。指導3で反則負けとなる新ルールの課題も見えた。

 山下氏は10月のグランドスラムアブダビ、今月のグランドスラム東京後にIJF理事らと新ルールについて計3日議論したという。山下氏は「リオ五輪は成功した。多くの試合がダイナミックだった」と評価した一方、「一番がっかりしたのが最後の(男子)重量級の決勝。あれが1つのきっかけとなった。最高の舞台で『指導1の差で勝敗を決めて良いのか』『GS(延長戦)に持っていった方が良いのでは』などの声が上がった」と説明した。

 重量級決勝とは、原沢がリネールに指導1-2の差で惜敗した試合。リネールがリードを奪って巧みに逃げ切ったとして五輪後、物議を醸した。IJFは、サッカーなどと比べて人気低迷が続く柔道が、五輪競技として生き残るために「一本の分かりやすい柔道」を目指している。相手を投げて、倒した者が勝つ。テレビ映えも意識した柔道だ。

 リオ五輪前、各国の連盟に東京五輪でのルール改正を求めて、20カ国から提案があったという。その新提案やリオ五輪の結果を受けて、新ルールでは有効が廃止されて一本と技ありだけになった。男子の試合時間は5分から4分に短縮し、指導差だけで試合が終了すれば、時間無制限の延長戦に入ることにした。「できるだけ技で決めてもらいたい。ルール改正がプラスになるのかやってみないと分からない」と、山下氏は本音も漏らした。

 課題もある。指導3で反則負けとなることで、一本ではなく「指導狙い」で攻撃する選手が出てくる可能性も考えられる。IJFの一本志向に沿わない、選手が現れるかもしれない。山下氏は言う。「柔道は競技と歴史や文化のバランスが難しい。柔道の価値を上げるために考えたルール改正ということを分かってほしい」。五輪が行われるごとにルール変更される柔道が、また新たな局面を迎えた。【峯岸佑樹】

 ◆リオ五輪のリネール-原沢戦VTR 原沢は開始8秒で奥襟を取られ、首抜きにより指導1を受けた。1分3秒に極端な防御姿勢により指導2を宣告。試合時間残り4分で指導2をリードされる厳しい展開となり、リネールは守りに入った“組まない柔道”を展開した。残り33秒でリネールに指導1が与えられたが、そのまま指導差1で2大会連続の金メダルを獲得。最も「目玉」とされる重量級決勝で面白みに欠けた試合となった。