<競泳:日本選手権>◇最終日◇19日◇静岡・浜松市総合水泳場

 世界の頂点が見えた。男子200メートル背泳ぎ決勝で、北京五輪同種目5位入賞の入江陵介(19=近大)が、世界新に0秒08と迫る1分54秒02の日本新で3連覇。世界歴代2位のタイムで派遣標準記録を突破し、7月の世界選手権(ローマ)の代表を確実にした。女子200メートル背泳ぎで寺川綾(24)が優勝し3冠。男子100メートル平泳ぎでは、初優勝の立石諒(19)と2位末永雄太(24)が、日本勢で北島康介に次ぐ59秒台を記録。水着開発競争の後押しを受け、今大会で日本新は20個(延べ21人)生まれた。

 惜しかった。昨年の北京五輪でロクテ(米国)がマークした世界記録まで、わずか0秒08。もう少しタッチが速ければ…。距離にして約14センチで、手のひら半分の長さだった。どよめきに続き、ため息が交じる会場の中で、入江は「うれしいですけど、あと0秒08で残念でもあった」と、左手で控えめにガッツポーズを繰り出した。

 トップながら、隣の5コースを泳ぐ中野と100メートルまではほぼ並んでいた。しかし、徐々に差を開き、最後の50メートルでは「タイムを見て行けるかな、世界新が出るかなと思った」。しかし、最初の50メートルで少し自重していた。予選で早めに入りすぎ、後半疲れた。そのため決勝では前半を抑えた結果が0秒08の差となった。

 自己ベストを出しながら、今大会は、50、100メートルともに古賀の日本新の前に2位と敗れた。「自信は持っていたが、ずっと助演男優賞の感じ。主演を演じたかった」。最も得意とする200メートルだけは譲れないと、レース前に世界新を出したいと公言。ほぼ有言実行で3連覇を成し遂げた。

 北京五輪代表選考を兼ねた昨年の大会では、優勝したものの日本新の更新はならなかった。「昨年はプレッシャーに苦しんだ。今日は、それを力に替えられた」。北京後は絶好調。11月のW杯では3大会連続で、200メートルの短水路日本新をたたき出した。今年1月には同種目の長水路で日本新を更新。泳ぐ度に記録を塗り替える入江は、北島が不在の中、日本水泳陣で最も世界に近い男だ。

 まだ19歳。北京五輪ではテニスの錦織らとともに、平成生まれのオリンピアンとなった。話し方がソフトで、今はやりの草食系で癒やしタイプ。ファンレターは「ほとんどが告白される内容」だという。しかし、大学では法学部に在籍し、試合にも勉強道具を持ち込む硬派な一面もある。「7月までに気持ちを成長させて、世界新と金メダルを狙いたい」。0秒08差は、世界のひのき舞台にまで取っておく。【吉松忠弘】