<テニス:全米オープン>◇4日目◇2日(日本時間3日)◇ニューヨーク・ナショナルテニスセンター

 【米ニューヨーク=吉松忠弘】エア・ケイが金星で完全復活だ!

 予選勝者で世界147位の錦織圭(20=ソニー)が、4時間59分の死闘を制し、5-7、7-6、3-6、7-6、6-1のフルセットで、全豪4強、同13位のマリン・チリッチ(21=クロアチア)を下す金星を挙げ3回戦に進んだ。3回戦進出は08年以来2年ぶり2度目。全米で日本男子が2度、3回戦以上に進出したのは51年中野文照(故人)以来59年ぶり史上5人目の快挙となった。これで8月15日に優勝したツアー下部大会から10連勝。3回戦は同23位のモンタニェス(29)と対戦する。

 すべてを出し尽くした5時間だ。身長差20センチ。エア・ケイが、198センチの巨人チリッチを粉砕した。全身全霊を傾けた合計379ポイント。最後は、錦織の鮮やかなリターンが抜けた。「うれしいし、5セットを戦い抜いた充実感があった」。勝利の瞬間、両手を突き上げ、高らかに復活を宣言した。

 流れ出る汗が、コートに飛び散った。気温34度に湿度60%の蒸し暑さ。コート上は50度近くにもなった。錦織の鼻の頭は直射日光を受け真っ赤。お互いに早い段階で足にけいれんが襲った。「どのセットもきつかった。左足の付け根に(けいれんが)きて、リードしては追いつかれた」。それでも最後まで体力が持った。

 体力に加え、カギはチリッチの高くバウンドする第2サーブの処理方法だった。練習でも、仮想チリッチの大男を相手に、何度もリターンを試みた。体が伸びきり、タイミングが合わず、前半はポイントを奪われた。しかし「4セット目からクリーンヒットできてきた」と、天才たる適応能力で、相手にプレッシャーを与え続けた。

 最終セット。最初のゲームで、チリッチのサーブを破り、最高のスタートを切った。しかし、続く自分のサーブで2本のダブルフォールト。今大会、リードして追いつかれる悪い癖が顔をのぞかせたが、必死にしのいでこのゲームをものにした。「あそこで踏ん張れたのは大きかった」。2-0とリードし、チリッチの反撃の意欲を封じ込めた。

 7月に、体のケアのためにフィギュアスケート浅田真央、プロゴルファー有村智恵をサポートする森永製菓ウイダーと契約を結んだ。同社が派遣する丸山哲トレーナー(35)が、6月の欧州遠征からツアーに帯同。8月の米国ツアーからは、これまで行っていなかった試合の日のトレーニングも取り入れた。その効果で、持病の腰痛も減り、5時間の激闘を乗り越えた。

 昨年8月下旬、一大決心して、痛みのある右ひじの内視鏡手術に踏み切った。「一番、つらい時期だった。すべてを失ったと感じていた」と振り返る。08年に16強入りした全米を見る気も起きなかった。どん底からたった1年。本格的に復帰した4月からわずか4カ月で、エア・ケイが世界に舞い戻った。